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殺戮とした空気の中ユーリはできるかぎり存在を薄めていた。
非力な自分ができることなんてまずない。だから今は彼らの足手まといにならないようにひっそりと息を潜めておくことが大事だった。かかれという合図とともに、一斉に兵が飛び出してきた。それと同時にあわあわとユーリは足をもつれさせながら物陰に隠れる。
間もなく、ルチルの上から人が飛び込んできた。とっさに気付いたルチルは急降下してきた刃を、短剣で受け流す。ルシファーはあの白い拳銃を遠慮もなしにがんがんと放っていた。けれど、倒しても倒しても人数が減る気配はない。
「あははっ、さぁいあく！ 魔力妨害されてるねえ、これ。援護呼べないわぁ」
「楽しんでる場合か！」
耳のピアスに触れて、まったく困った素振りを見せないルシファーにルチルは苛立ちの表情を見せチッと大きな舌打ちを鳴らした。
明らかに状況下はこちらが不利である。何かしたい。けどしちゃだめだ。ユーリはぐっと動きたい衝動を抑えて息を押し殺した。その瞬間、ユーリの首筋に何か冷たいものが触れる。っひ、とユーリはわずかにこえを漏らした。そう、敵兵である。
「立て」
ユーリは首をかすかに横に振った。立てば、人質として扱われることが分かっていたのだ。それに兵は僅かに顔を歪ませて「立て！」と声を荒げた。鼓膜を大きく刺激するその声に、耳鳴りを覚えユーリは目をきつく結んだ。
その状況に気付いたのはルシファーのほうだった。彼は常に上弦に歪めていたその余裕の表情を崩して、黄金の双眼を大きく見開いた。そしてルチルの脇を小突く。ルチルもこちらに気付いたのか目を細めて、そっと自分の短剣を地面に置いた。ルシファーもそれを見て肩をすくめ、銃を地面に置く。
「あれの、やってることが人間の屑の行動だと思うんだけど、どう思う？」
「挑発するな」
「つまんないなぁ」
手を潔くあげるルチルに目を細めて、ルシファーも口を尖らせながら手を挙げた。兵たちは銃や剣先を向けて、彼らに一歩近づいた。
それにユーリは目頭がぐっと熱くなるのを感じる。ああ、どこまで彼らの足を引っ張れば私は気がすむんだろう。今、今……私はどうすればいい。混乱する頭でユーリは必死に考えた。
「持ってる武器はそれだけか」
「俺はな」
「僕、所有してる武器全部出したら君たち潰す勢いで出てくるけど、それでもいい？」
「……出さなくてもいい」
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