【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ19)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:14,738 hit

ページページ19

ルチルはユーリを頼ろうとはしない。彼女が不甲斐ない、頼りないというのもあるんだろうけどそれ以上に私に心配や不安をかけてはいけないというものがどこかにある気がする。
　ユーリはそれが納得がいっていなかったしとても辛いものでもあった。彼は強い。心の芯も。それは、ルチルに幾度も助けられたユーリもよく分かっていた。しかし彼には感情がある、優しさがある。それなら、彼の中に影というものもきっとあって、その潜んでいる陰というのを誰が聞いてあげているのだろうと。一番可能性のありそうなロイドだが、あまり二人だけで接触しているということはなさそうだ。もし……ルチルの中に誰にもいえていない影があるのだとしたら、自分がいつか聞いて上げれたらいいと。ユーリは素直にそう思う。
　ロイドは無理に聞きだすものじゃない。聞いたところで、仲が深まるわけではないとそう言っていた。だから、待つことにしたのだ。
　ルチルの心の支えになれる日まで。彼が自分に弱音をはいてくれる日まで。

“知り合ってまだ時間も、日も浅いんだ。だったら、もっと時間をかけていいと思う”

ロイドのその言葉はユーリの道しるべになった。
　まだ出会って一年近くしか経っていない。それなのに何度も急いで、焦って、から回って、すっころんだ。だけどその経験もロイドの言葉を素直に受け入れるための材料となった。
　焦っちゃだめ。まだたくさん時間はあるの。ユーリは頬ををぺちぺち叩くと、キッチンで食器を片付けるルチルの背中に飛びついた。ルチルは「うわっ」と驚いたようで、目を見開いてユーリを見たあと、今度は不満そうに眉根を寄せた。

「何か手伝うことない？」
「ん？ああ、じゃあ食器しまって」
「はぁい！」

「子供みてぇ」と笑う、ルチルにユーリは彼の笑みに釣られてにへらと笑みを浮かべた。
　多分、話してくれるのもそう遠くない……と願いたい。ユーリは心の奥そう呟いた。
　ユーリがティーカップに手をつけたときだ。わずかに食器がカタカタと揺れて、ユーリは首をかしげた。あれ、地震かな？珍しい。
　するとルチルが動きを止めた。目が細められてどことなく鋭くなる。警戒してるようにも伺えた。ユーリが首をかしげると、ルチルはユーリを抱き寄せて自分の後ろにまわした。彼の唐突の行動にユーリが目を丸めるのに対し、ルチルはドアの方向をじっと睨みつけている。
　やがて、ドアが勢いよく開かれた。