【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ18)

今日:12 hit、昨日:0 hit、合計:14,747 hit

ページページ18

「……タルト焼いたから、おやつにしようか」
「タルト！うん！」

　それにルチルは微笑み、お茶淹れて来るとドアの中に姿を消した。それに、ユーリは首をかしげた。あれ、今思いっきり話逸らされた？気のせい……いや、あからさますぎる！内心、動揺したユーリだがすぐに「ああ、触れてほしくないことだったのか」と肩を落とした。
　けれど、彼の反応を見た限り“ノアール”という人物がいるのだろう。その人なのか、確信はない。けれど、いつか会えたらいいな。ユーリは心の片隅に留め、レジにベルを出して家の中にひっこんだ。

　ふんわりとした甘い香りが鼻をつき、ユーリは思わず頬を緩める。
　テーブルに置かれたのはベリーのタルトだ。赤や紫大小さまざまなものがバランスよく並べられている。特に目を引くのはイチゴだ。大きくて形もよく、熟している。
　これらは使い切るのが難しいとカランに余ったものを先日こっそりいただいたものである。それもたくさん。半分はこのタルトに、もう半分はジャムになったらしい。
　隣には綺麗な紅茶がティーカップに置かれていた。鼻を動かすと、ハーブの香りもする。これは……ミントかな。腰を椅子にかけるとキッチンに立っているルチルが、こちらに目を向けた。それにユーリは笑顔を返す。

「ルチルも一緒に食べよ！」
「言うと思った」

そんなユーリにルチルは苦笑いを浮かべると、キッチンでの作業をいったん止めて、ユーリの向かいに腰をかけた。

「今日は見てのとおりベリータルトと飽きないように口直しにむいた後味のいいミントティーです」
「えへへ、楽しみ」
「結構、うまくタルト生地も焼けてたから味はいいと思う」
「ほんと？でもルチルの料理はなんでも好きだよ」
「……よく言う」
「ほんとだよ！」
「分かった分かった。ありがと。それじゃあ、いただきます」
「いただきます」

他愛のない会話を交わし、食前の挨拶を交わすと、ユーリはフォークをタルトに刺した。サクッと音を立ててタルト生地が割れる。口に放れば、ラズベリーのプツプツとタルト生地のサクサクした食感が楽しい。酸味の強いベリーと甘いソースの相性もよく、頬が自然に緩んでいくのが分かった。「馬鹿っぽい顔」とルチルが苦笑いを浮かべる。それにユーリは「ひどい」と頬を膨らませた。
　余談ではあるが、この時点でユーリは先ほどのことなど頭の片隅にもなくなっていた。