【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ11)

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その人物は、逃げることもしなければ、口も開かず、弾を避けようとした動作もない。弾を放たれたというのにふらつくこともなく、ただその銃を自分に向けて放った男のことをただ見つめているようだった。
　やがて、森がまたごうごうと唸る。風が巻き上がり、その人物のフードはいとも簡単に取れた。

　黒曜石のようなたっぷりと揺れる黒い髪、肌は髪のせいもあるのだろうが異常なまでに白く処女雪を連想させるほどだ。唇は薄紅色で、肌によくなじんでいる。ただ、その人物の切れ長の黒真珠からはなにも感じ取ることはできない。表情も動かず、感情もないように思えた。氷の彫刻。それがたとえるとぴったりな青年だ。
　やがて重い何かが地面に落ちる音がした。覗けば、それは銃弾。まだ煙があがっており、放たれて時間が経ってないことは明確である。

「……残念だな」

青年は、銃弾を放った男を見つめたままそうボソリと呟いた。彼の白いまぶたが静かに閉じ……やがて“黄金”が開く。
　それに一人の男が悲鳴をあげて逃げ出した。続いて周りを囲っていた男たちは相次いで逃げ出す。唯一逃げ出していないのは青年に銃を放った男だけだった。じっと銃を抱えたまま青年をみつめている。そんな男を青年はそれを見据えて、目を細めた。そして、金色のひとみを横目で私を見る。彼は間を置いて「災難だったな」とだけ。しかしその表情に、怒り、悲しみ……それどころか同情の色も伺えない。
　そっと、私を地面に下ろす。やがて青年はローブの長いすそを揺らし、森の奥へと歩き始めた。逃げない男を見れば、男は相変わらず銃を構えたまま……動かない。今度は森の奥へ消えた青年を見つめた。
　暗闇の中、黄金のひとみだけがただただ光っている。こちらの様子を伺っていることだけはすぐに分かった。猫みたいと思う。すると青年はぽつりと呟く。

「……おいで。帰る場所なんてないだろう」

私は青年に駆け寄った。すると青年はローブからすっと手を差し出す。白くて細い指。女の人のような手だ。そっと手を重ねればひんやりと冷たい。青年は私が手を乗せたのを確認して、そっと手を握り返す。
　その青年がひどく美しかった。違う。あの人は何もかもが美しかった。

　全てを知ったような、あの黄金の人ならざるものの目も。
　