【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ2)

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それにユーリは眉尻を下げた。一体、彼は何に機嫌を損ねているのだろうか。その見当がまったくもってつかない。ここまであからさまに怒りを露にする彼も珍しいのだ。
　ユーリはただ黙り込んで、ルチルの様子を伺っていた。ルチルはといえばそんな彼女を見つめて顔を腕の中にうずめそして小さくぼやく。

「なんでこんなに機嫌悪いか知りたい？」

ユーリはそれに大きく首を縦に振った。当然だ。
　もし自分に非があるんだとしたら、それは直したい。するとルチルはユーリの鼻から手を離し体を起こすと、思いっきり自分のほうにユーリを引き寄せた。あまりにも唐突の出来事に、ユーリは体を硬直させる。ルチルの体温がずっと近くに感じられ、耳元でかすかに呼吸だけが聞こえた。それに心臓がその瞬間悲鳴をあげるようにバクバクと大きく音を立てて弾む。呼吸が浅くなり、体にやけにカッと熱が集まっている気がした。すると肩に何かがのしかかる。

「俺さ、これでもすげえ怒ってるんだよ」
「……」
「自分の不甲斐なさにも、力のないことにも。でも、それ以上に」

ルチルはそこで一度言葉を止める。そこで、ユーリは小さくルチルの体が震えているのに気付いた。

「お前に一番怒ってる。俺ってそんな簡単にお前のこと嫌うやつだって思われてたんだって」

ユーリはその言葉に胸が引き裂かれるように痛んだ。胸の奥がぎゅっと縛りつけられる。あ、そうだ。ああ、そうだ。
　かすかに震えた声が漏れる。違うと、ユーリは叫びたかった。けれど、きっとそれはできない。だって、だって、そんな風に思っていたから病を見られてしまったときに私は“彼を突き放した”のだ。いくらそれを否定したところで、心のどこかに小さくそれが潜んでいたことは確かでその事実はユーリの心をひどく抉った。
　ふと、彼を振り払ったときの傷ついた顔が脳裏をかすめる。彼のあんな顔を、はじめて見たのだ。苦しいそうな、どこか切なそうなそんな表情。私は彼をどれだけ傷つけたんだろう。なんで傷つけてしまったんだろう。分かっていたはずだ、分かっていたはずだというのに。ルチルがそのくらいで自分を嫌うはずないということを。

「ごめんなさい」

ふとそこでそんな言葉が零れた。
　必死になって、私を助けに来てくれた彼を疑ってしまった自分がひどく憎たらしく感じられる。そんな感情とともに、はらはらとユーリの瞳から花びらが零れた。