【オリジナル】花売り少女と時止めさんⅣ【名前変換可能】 (ページ1)

今日:1 hit、昨日:13 hit、合計:14,749 hit

Ⅲ、君のこと、僕のこと（続）ページ1

ユーリはふと目を覚ました。見知らぬ天井に驚いてとっさに体を起こす。すると体によく合うベッドに少し飛び上がった。自分の家じゃないことは確かだ。
　あれから、あれからどうなったんだっけ。確か、ルチルにおんぶされて……そこから記憶がない。恐らく自分が思っていた以上に疲れていたせいで、安心して寝てしまったのだろう。外を見れば、大きな太った三日月が空に昇っている。どうやらだいぶ寝てしまったらしい。
　ここがどこなのか気になったユーリはそっとベッドから降りようとして、動きを止めた。ベッドの端のほうが沈んでいる。そっと顔を覗かせると、そこにはルチルが落ち着いた様子で小さく寝息を立てていた。深く閉じたまぶたには髪と同じ色の銀の長いまつげがかかっている。
　きっと、心配をたくさんかけたのだろう。彼もつかれきっているのか、起きる様子がない。そこでユーリはそっと彼の頭に手を伸ばした。ルチルの髪には……なかなか触れない。自分より身長が高いのも当然のこと、年下のユーリに撫でられるのは彼のプライドが許さないようだった。こうやって触るのは、出会ったとき以来な気がする。

　彼の銀色の髪を手ぐしにかければ少し指先にからまったものの、ほとんどはさらさらと指先から零れていった。よく見ると、ルチルの髪の毛は色素が薄いらしくやや透明に見えた。窓から差し込む月光の光のせいかきらきら光るそれはまるで、水のようだ。
　やっぱり綺麗だなあ。嫌になっちゃうくらい。少なからず、美人の要素がないユーリはそんなルチルが少し妬ましく思えてしまう。わざと頬を膨らますユーリ。そんな彼女はルチルのまぶたがかすかに震えたことに気付かなかった。
　むぅと膨らんでうつむくユーリ。とたん鼻がギュッとつままれ、彼女は唐突の出来事にひゃうと悲鳴をあげた。それがルチルだということに気付いた彼女は、彼を目を丸めて凝視する。すると、赤色と金色がうすくまぶたから覗き、不機嫌そうに眉根がひそめられた。

「……」
「……おはよう。気分は？」
「……だ、大丈夫」
「ふーん」

どこかそっけない態度。というか、徐々に鼻をつまむ手に力がこもってきてる気がするんですけど、気のせいですかね。そこから、なんとなく彼が怒っていることはすぐに分かった。ユーリはうーと少し唸ってみせる。

「ルチル、怒ってる？」
「……さあ」

鼻声で問いかければ返ってきた声はいつもよりどこか低い。