【オリジナル】花売り少女と時止めさん【名前変換可能】 (ページ24)

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店の中に入るなりルチルはユーリの頭をワシャワシャと撫でた。唐突な彼の行動に目を丸めていたユーリだったが、ルチルはそれに目を細める。

「お疲れ……あまり、無理するなよ」

その言葉にジワジワと心が温まるのを覚えた。いや、温まるよりは熱くなったの方が正しいかもしれない。心が壊れそうなほど、痛いと叫んでてしまいそうなほどだったからだ。

　今まで、こんな触れ合いはなかった。それはユーリがずっと一人に近い生き方だったからである。両親と共に暮らしてた頃の記憶はほとんどない。どんな愛情を両親がくれて、どうやって育ててくれたのか……思い出すことは出来ない。あまりにもその記憶は遠く、古く、錆びていた。

　間もなく、ルチルの手がすっと離れる。それにどこかユーリは寂しさを覚えた。もっと、撫でてほしいなあ、とユーリは眉根下げる。
しかしそんなユーリにルチルは気づかいていないのだろう。いつも通り窓際の壁にもたれかかり、窓縁においてあった本を手に取る。

　ルチルはあくまでもユーリの考えてることがよく分かるだけで、完璧ではない。それは……仕方ないといえば仕方ないのだ。しかし、そうは思っても、どこか寂しさはぬぐい取れず、ユーリは一人俯いた。

　カウンターに戻り、ユーリは猫足の木製の椅子に腰をかける。頭には、まだ彼のぬくもりが残っているような気がした。そんなはずないと、分かっていながら、ユーリは心が温まる。それと同時に何故か頬が少し熱くなった気がした。
　カウンターの上には造りかけの言花が広がっている。ヒヤシンスにラベンダー、コスモスにガーベラ……仕事をしなければいけないのに、どうしても気がそれてしまう。いや、正確にはやる気がなくなったというべきかもしれない。

　ユーリはふとカウンターの上に乗った赤いコスモスの花弁を手に持った。つるつるとした柔らかな触り心地が気持ちいい。
　触り始めると、案外無心になってしまうものだ。だから、目の前で怪訝そうに細められた金と赤の瞳に気づけなかったのだろう。

「ユーリ」
「うわぁ！」

　驚いてユーリが飛び上がれば、ルチルは「なにしてるんだ」と大きく溜息をついた。