天女の涙3 ページ9
Side S
戸を開けると、絵具の匂いが立ち込め、部屋の至る所に豪華絢爛な掛け軸や障子があった。
「すごい…。これ、全部智が……」
「ありがとう。俺、絵師だから」
雄々しい風神雷神の姿、繊細な菩薩、猛々しい龍神。掛け軸や障子に描かれたそれは、ゆっくりと動き出しそうで、思わず目を逸らした。
「さ、脚診せて？」
布団の上で着物を肌蹴させるなんて…。これは掟に反していないだろうか。不安になり智の目を見つめると、智は砕けて笑った。
「取って食おうなんて考えちゃないさ。ほら、解すから」
おずおずと脚を晒す。智の骨張った男らしい指が、私の脚に触れた。
どくん、と心が跳ねた。
なんだ、この気持ちは…。
「どうかな？楽になってきた？」
「ああ…。幾分かは……」
手を取られ引っ張って立たされる。またどくんと心が跳ねた。
「そう、よかった」
柔らかく微笑まれた瞬間、また心が跳ね、胸の奥が締め付けられるように痛んだ。
「……っ、」
「翔？まだどこか傷むのか？」
「見るな…！そなたを見ると心が乱される…！」
両手で顔を隠すも、火照った顔は一向に収まらない。
「ふふ、翔は心が澄んでるね。本当に美しい」
「うるさい…！見るなと言っただろう…！」
「可愛いな。……そういえば、翔はどうして市に？」
そうだ。天帝様の頼まれ事があったのだ。
空を眺めると赤く色づいていて、私は下界に長居してしまった事に慌てた。
「天帝様に、叱られる……」
「天帝って怒るんだ？これ、翔が落としてった物だよ」
智が私の手に持たせたのは、私が市を走り回ってやっと見つけた物。風呂敷に包まれたそれは、私の命よりも大切にしなければならない、天帝様の所望する物だった。そして私の羽衣が入っていた。
「ありがとう…。これで明日の祭事が行える」
「じゃあ早く帰りな。……また逢おうね」
「ああ…。それでは……」
心が痛い。
もう逢えないかもしれない、と私のこと心が泣いた。
「きっとまた逢えるよ。……はい、これあげる」
手を広げると、智が絵馬の形をした根付を置いた。絵馬には百合の花が描かれていた。
「くれるのか…？」
「昨日描いたんだ。もしかしたら翔に出逢うのは必然だったのかも」
「智……」
この心の痛みは何だろう。苦しくて、涙が出そうだった。
智に見守られながら飛び立つ。白鳥になって天に向かう。
振り返ると、智が柔らかく微笑んでいた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 261人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はな(プロフ) - 歩夢さん» いつもコメントありがとうございます。前回は返せずごめんなさい。なで肩さんの夢なので何でもありにしてみました。また足を運んでくださると嬉しいです。 (2014年9月29日 12時) (
レス) id: eaa9330744 (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - 翔さん可愛すぎますね...これからも頑張って下さい！ (2014年9月28日 23時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - そういう話ですかそうですか.....面白いっ！ (2014年9月18日 7時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
智夏(プロフ) - かいてくださり、ありがとうございます!!もう、面白くてやばかったです!!慌てる潤くんかわいかったです。にの、早く気付いて思わず笑ってしまいました笑。これからも、頑張ってください (2014年9月6日 18時) (レス) id: 04c882c90f (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 歩夢さん» 分かりづらくてごめんなさい！プライバシーの関係で、名前は伏せると決めているので…。ご期待に添えていたら嬉しいです。今後ともよろしくお願いします！ (2014年9月2日 11時) (レス) id: 66d9ffabb2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はな
| 作成日時：2014年8月19日 23時
