天女の涙5 ページ11
Side S
百合の根付を天に持ち帰った時、天帝様に言われた。『人の匂いがする』と。
人と天人は結ばれてはならぬと聞いたのもその時だった。
天から追放されると、結ばれると消滅すると聞いたのもその時だった。
それでも、智を忘れる事は出来なかった。
私は初めて天帝様の意に反し、勝手に下界へと降りた。智は私を優しく迎え入れ、天帝様が屏風を欲しがっているという虚偽を伝えると、嬉しそうに笑った。
そして態と置いていった腕飾り。私が智に腕飾りを差し出すと、彼は私を強く抱き締め、言ったのだ。
「俺は…翔を、どうしようもなく愛してしまったみたいだ……」
嬉しかった。心が年甲斐も無く喜びに踊った。
首に鼻が触れ、頬を撫でられ、髪を梳かれ、唇にあたたかで優しいものが重ねられた。
じんと甘く痺れ、靄が掛かったように頭が白んだ時に、あの言葉を思い出した。
『人と天人は結ばれてはならぬ。結ばれたが最後、天人は消滅するだろう』
智を愛する気持ちに変わりはない。しかし、身を呈して天からの追放と消滅を受ける事を許せる程、強い心でも無かった。
すまない…こんな私で。
流した涙は水晶に変わった。私は百合の根付を置き、天に帰った。
「翔…!!どうしたのですか、その羽衣は!!」
すれ違った天女に羽衣を指摘された。
じわじわと侵食されるように、純白の羽衣が黒色に変化していた。
「なんで…!」
足元に伸びた羽衣の半分が黒く変色し、変色は止まった。
その変化はすぐに天帝様の耳にも入り、宮に呼ばれると、天帝様の怒号が響いた。
「人と交わったのか…!」
「天帝様……」
「人と交わったのかと聞いている!天女は純真無垢で無ければならぬと言っていたはずだ!……お前には目を掛けていたのに…!……牢に入れておけ!」
「……嫌でございます…!天帝様!天帝様!!」
閉じ込められてしまう。そうすれば智にも逢えなくなる。
力の限り暴れ、逃げ出そうと試みた。しかし逃げられなかった。
手と脚を拘束され、鎖で繋がれる。
自由を奪われ、立ち上がる事も許されない。
こうなるのだったら、いっそのこと智と結ばれてしまえばよかった。
もう一生逢う事の出来ぬ智に想いを馳せて、智の名を呟いた。
涙が止まらなかった。
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はな(プロフ) - 歩夢さん» いつもコメントありがとうございます。前回は返せずごめんなさい。なで肩さんの夢なので何でもありにしてみました。また足を運んでくださると嬉しいです。 (2014年9月29日 12時) (レス) id: eaa9330744 (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - 翔さん可愛すぎますね...これからも頑張って下さい! (2014年9月28日 23時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
歩夢(プロフ) - そういう話ですかそうですか.....面白いっ! (2014年9月18日 7時) (携帯から) (レス) id: 536defc02b (このIDを非表示/違反報告)
智夏(プロフ) - かいてくださり、ありがとうございます!!もう、面白くてやばかったです!!慌てる潤くんかわいかったです。にの、早く気付いて思わず笑ってしまいました笑。これからも、頑張ってください (2014年9月6日 18時) (レス) id: 04c882c90f (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 歩夢さん» 分かりづらくてごめんなさい!プライバシーの関係で、名前は伏せると決めているので…。ご期待に添えていたら嬉しいです。今後ともよろしくお願いします! (2014年9月2日 11時) (レス) id: 66d9ffabb2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はな | 作成日時:2014年8月19日 23時