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ページ29

『…どういうつもりですか。』

「言葉の通りだよ、俺の元に来ない?」




アブさんはそう言ってにっこりとほほ笑む。




『…家出をして、レトルトの仲間にまでなった私なんか、いても迷惑なだけですよ?』

「そんな事ないよ!俺にとってAちゃんは、そんなリスクを背負う以上に価値がある!」




私の正直な答えに、アブさんは熱を宿した瞳を向けて言う。




「俺の元に来れば警察から逃げる必要もない。」

「新しい名前で生きていくことだってできる。欲しい物でも、なんでも与えるよ!」


「例えそれが、パライバ・トルマリンだったとしてもね。」




アブさんは懐から一つの宝石をとりだす。
透けるような水色、輝くその姿は紛れもないパライバ・トルマリンだった。

なんでアブさんがそれを?
そんな言葉はのどに詰まって、声として出ることはなかった。

この人は可笑しい。なんとなくそう思った。




「ねぇ、だから俺のところに来てよ。」

『…それは、』




それはできません。
そう言おうとした時だった、壁を見たアブさんの表情が変わる。

焦ったように部屋を出て行くアブさん。




「ごめんね、また後出来るから!いい返事を期待してるね。」




そう言って真っ暗な壁に紛れた、私が入ってきた場所とは反対側にあるドアを開けて、部屋を出て行く。

そこにドアがある。
そう分かった瞬間、私はそのドアに飛びついた。

が、鍵が掛けられているのか「ガチャガチャ」と音を立てて、扉は開かなかった。




『っ…、開かない。』




目が慣れたとはいえ、真っ暗な状態ではちゃんとした判断ができない。

手探りで壁に取り付けられた、電気のスイッチを探す。
手に触れるスイッチの感覚。迷わずそれを押した。




『…、すごい。』




押すと同時に部屋には明かりがともる。

眩しくて、少し瞬きをした後に部屋を見渡す。
真っ黒な壁。ドアが闇に紛れて判別がつかなかったわけだ。


明るい中で見てみると、やはり自分の部屋と瓜二つ。
違うのは、窓がないことと、扉の位置が違う、壁の色が違うという点だけだった。

本来なら、この開かない扉の反対側…、私が入ってきた場所に扉があるはずだ。



『でも、どうやって入ってきたんだろう。』




その場所の壁を叩いたり触ったりしてみるが、変化はない。

腕が引かれた感触はあっても、どうやって入ってきたかまではわからない。


取りあえず、アブさんが帰ってくるまでにこの部屋を脱出しないと。

〃→←〃



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レイ - 続きが気になる… (2022年8月10日 12時) (レス) @page36 id: 88c030d218 (このIDを非表示/違反報告)
トマトまと(プロフ) - めちゃくちゃ面白いですね!シリーズ1話から一気に読んでしまいました!!更新楽しみにしてます。 (2022年4月7日 0時) (レス) @page35 id: 1d9d2ab89b (このIDを非表示/違反報告)
紫花莉(プロフ) - 春雨さん» ありがとうございます! (2018年4月16日 17時) (レス) id: adbcb7ad7c (このIDを非表示/違反報告)
紫花莉(プロフ) - ネアさん» ありがとうございます! (2018年4月16日 17時) (レス) id: adbcb7ad7c (このIDを非表示/違反報告)
春雨 - おもしろいです!一気に見ちゃいました!頑張ってください! (2018年4月7日 22時) (レス) id: 71cbe914fc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫花莉 | 作成日時:2016年11月28日 18時

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