【ky】 朝起きたら有名ゲーム実況者になってました

「動画」 ページ16

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レトルトさんは「今回は俺の負けを認めるで。けど、次は覚えとくんやなぁ！」と謎の捨て台詞を
吐いていたけど、結局一緒にマンションまで戻って来た。

コップの場所も覚えた私は、レトルトさんにお茶を出す。




『そう言えば、そのノートパソコン、なんで持ってきたんですか？』

「あ、忘れとったわ…」




レトルトさんは「また一本取られたわ…！きぃー！！」とハンカチを噛むフリをした後、パソコンを起動させた。

なんだろう、レトルトさんは案外コミカルな感じなのかもしれない。




「キヨ君に動画を見せようと思てな」

『動画、ですか？』




レトルトさんはYouTubeで動画をクリックすると、音声と映像が流れ始める。




《うぃーす！》

《こんちゃーす！》




聞きおぼえのある声。




「これ、俺らの動画なんやけど」


《じゃあ今回は、このゲームで対戦しまーす》

《説明雑やな》




これは二人がとあるスマホゲームで対戦するという実況だった。

楽しそうな二人の声、たくさんのコメントに再生回数。
あぁ、これが本来のキヨさんなんだ…。


私が夢の中で会った人と、何も変わらない。

明るくて、声が大きくて、案外雑で、面白い。




「キヨ君のパソコンで見ようかと思ったんやけど、俺パスワード知らんから」

『わざわざ持ってきてくれてありがとうございます』


《はい、という事で…俺の圧勝でしたね！》

《いや、レトさん全敗してたじゃん！》




ファンの人が彼を慕う理由が、少しわかった気がした。




「…どう、なんか思いだせそう？」

『いえ…何も…』

「そっか」




何処か寂しそうなレトルトさんの表情。

キヨさんがキヨさんに戻らない限り、私が思いだすことなんて何もない。
初めから何も知ら無い私じゃ、何もできない。




『…少し、他の動画も見てもいいですか？』

「おん…！これとかすごく盛り上がったで！」




けど、少しだけ。
ほんの少しだけ、レトルトさんの優しさに甘えたい。

もっと、レトルトさんを、キヨさんを、二人の事を知りたい。そう思ったから。

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