優しさをください。37 ページ49
何もわからない、何も知らない。
自分が誰なのか、どんな生活を送っていたのか、どんな風に笑っていたのか。
どんな友達がいたのか、どんな人と知り合いだったのか。
親の顔も、兄の顔も、姉がいたのかも、妹や弟がいたのかも分からない。
――この、虚無感が、わかるだろうか――？
『安室さん』
安「！」
『私は、赤の他人、ですよ。あなたとは』
それは、事実として突きつけた言葉。何を思って言ったのか、自分でもわからない。それでも。
『私と、あなたは、他人なんです。安室さん』
言い聞かせるように。言葉を紡いでいく。それは、私自身に言い聞かせているのか、安室さんに言い聞かせているのか。全くわからない。けれど、言わなければならないと思ったのだ。
それは、目の前にいるこの男性が、あまりにも私に手を伸ばそうとしていたからかもしれない。
それに下がってはいけないとわかっているから。
私は、その手を払いのける――。
自然と、笑みが浮かんだ。
『安室さん』
安「……何ですか」
『事実ですよ、これは。覆らない、真実です』
安「……っ」
『別に、あなたが嫌いだから、言っているわけでは、ないです。安室さんは、すごく、優しい人だと、分かるから……』
安「……それも、偽りかもしれない」
『なら、騙されます。私は、優しいあなたを、信じたいから……』
安「……あなたは、どうして……！」
何かと葛藤するような安室さんを見つめながら、私は、必死に体を動かして、ベッドから降りようとする。ぎし、とスプリングが軋む音がして、ハッとしたように安室さんが私を見つめる。綺麗な青の瞳を見ると、ほっとする。
どれほど頑張って手を伸ばしても、決して届かない青色が、目の前にあることに安心するのかもしれない。
ずずっ、と体を引きずるようにして、私はベッドから降りる。自分の両足で立とうとしたけれど、上手くいかなくて膝から力が抜け、そなまま座り込む。
慌てたように、安室さんが私に手を伸ばしてきてくれる。
けれど、私はそれを、拒絶する。
『ダメです、安室さん』
安「……っ！？」
『ダメですよ、安室さん……』
手を伸ばされて仕舞えば、私は、またあなたにすがりついてしまう。それはいけないのだ。
これ以上の負担になりたくないから。だから、私は。
――あなたを、拒絶するの。
青の瞳と、視線が絡む。
信じられないと言うように見開かれてその瞳を、私もじっと、見つめ続けた。
…to be continued
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妃沙(プロフ) - 明里香さん» 誤字のご指摘ありがとうございます！修正しました！ (2018年6月2日 20時) (
レス) id: 8817d67e5d (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 安室sideに誤字がありました。「毒の車」ではなく、「僕の車」です。 (2018年6月2日 19時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
妃沙(プロフ) - コメントありがとうございます！面白いと言っていただけてとても嬉しいです！更新頑張ります！！ (2018年5月27日 8時) (レス) id: 35e497a401 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 凄く面白いです！！、更新頑張ってください！応援しています！！！ (2018年5月26日 23時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：妃沙 | 作成日時：2018年5月18日 8時
