閑話：side安室―5 ページ31
安「昨日、引き取った彼女が今車の中にいるんです。怪我の手当てをしたいのですが、僕では流石にできることとできないことがあって……」
蘭「ああ、そうなんですね。じゃあ、一緒に行けばいいですよね？」
安「はい。お願いします」
そう言って、早々に事務所を出て、車のところまで戻る。
Aさんが車の中から不思議そうに、しかし、警戒したようにこちらを見ていたが、僕の後ろにいるのが蘭さんだとわかると、ほっと安堵したようだった。
車のそばまで行き、助手席の扉を開け、蘭さんと一緒に覗き込めば、驚く光景が待ち構えていた。
蘭「あっ、大丈夫ですか！？」
『……え？』
その攻撃に驚きすぎて何も言えなかった僕の代わりに、蘭さんが反応する。しかし、彼女の反応を見る限り、“それ”を全く自覚していないのだろう。
何を言っているかわからないというように、彼女は首を傾げたのだ。そんな彼女の様子に困惑して、蘭さんは僕と彼女を交互に見つめる。
と、彼女も蘭さんの反応の答えを求めて僕を見つめて来た。しかし、正直に僕もどうすれば正解なのかがわからない。だから、しばらく彼女を見つめるしかできなかった。
意を決して、僕は彼女がわかっていない事実を伝えるために、Aさんに向かって、手を伸ばした。
しかし、その瞬間――。
『……っ！！』
恐怖一色に染められた顔。思わず、目を見開いてしまう。ハッとしたように、Aさんが何かを言いたそうに視線を彷徨わせながら僕を見る。
しかし、恐怖でこわばった体はピクリとも動かず、喉から声を発することもない。それだけ、彼女にとって、今の僕の行動が彼女の恐怖心を刺激したのだ。
その心を守れなかったのだという事実を突きつけられて、もしかしたら信頼されたのかもしれないという、驕った考えを砕かれて、悔しかったし、悲しかった。
伸ばした手を引っ込めて、代わりに体を押し出す。
Aさんの目の前で一旦体を止めて、彼女を縛り付けているシートベルトを外す。
『ありがとう、ございます…安室さん』
安「…！いえ…これぐらい、当然ですよ」
か細い声でお礼を言われると、逆に申し訳なくなってくる。
そう。守れなかったのだ。
彼女の心を。その恐怖心を拭いさってあげることができていなかった。
あの一瞬の間しか、僕は彼女を守れていない。その事実が、何よりも僕の胸を苦しく締め付けて来た。
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妃沙(プロフ) - 明里香さん» 誤字のご指摘ありがとうございます！修正しました！ (2018年6月2日 20時) (
レス) id: 8817d67e5d (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 安室sideに誤字がありました。「毒の車」ではなく、「僕の車」です。 (2018年6月2日 19時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
妃沙(プロフ) - コメントありがとうございます！面白いと言っていただけてとても嬉しいです！更新頑張ります！！ (2018年5月27日 8時) (レス) id: 35e497a401 (このIDを非表示/違反報告)
奈楠(プロフ) - 凄く面白いです！！、更新頑張ってください！応援しています！！！ (2018年5月26日 23時) (レス) id: f44adf4250 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：妃沙 | 作成日時：2018年5月18日 8時
