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まるで親のような 。 ページ1

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「___やあ、中也。」

「....何で手前が此処に居んだよ、糞太宰。」


森から仰せつかった、Aへの体術指導も始めてからもう半年となる。
元からの素質があった所為か、Aもかなり成長している。

故に、いつものように体術指導を終え、自室でゆっくり酒でも飲むかと部屋の扉を開けた瞬間目に飛び込んできた“人間”に思わず頭を抱えたくなった。


ーーーソファに我が物顔で寛ぎ、葡萄酒片手に笑う太宰など誰が見たいと思うだろうか。

少なくとも中原は、一気に疲れが溢れ出てきたように感じられた。


「いやね?私も私で、“彼”の尋問で大変なのだよ。もう半年となるのに、彼は薄ら笑みを浮かべるだけで、答えようとしない。

彼とはそれなりに仲が良かったからねえ、彼の身体に傷をつけるような行為は最低限したくない。___そんな首領命令と友情の間で葛藤する私を励ますくらいしてくれないか、と思ってね。」

「その励みのオプションに俺の秘蔵の葡萄酒を飲む事がついてんのか」

「いやぁ、流石は中也!
あの中で一番高そうなのを選んだのだけれど、矢張り美味しいね!」

「巫山戯んな手前!!」


殴りかかろうとするが、するりと躱す太宰に更に苛立ちが募る。と云うよりも、最早呆れに近いかもしれない。

にっこりと笑う太宰の表情と雰囲気はもう見慣れている。これは、今晩太宰の話に付き合わなければならない。

痛むこめかみを抑えて、開けっ放しの葡萄酒をグラスに注ぐと「で?」とぶっきらぼうに用件を尋ねた。


「手前が一々、そんな事で話に来る玉じゃねェだろうが。
一体何を聞きに来た。」

「...流石。」


浮かべていた笑みを消して、太宰はグラスを指先で弾く。
太宰の鳶色の瞳に、赤葡萄色が揺らめいて映った。


「ーーーAの件だよ。

君、彼女に体術を教えているそうじゃあないか。」

「嗚呼。首領の命令でな。」


ゆっくりと、瞳に映すのを赤葡萄色から中原へと移動させる。


「ねえ、中也。
君のお陰で、彼女は少しずつ変わりつつある。

たまたま先日、Aを見かけたけれど最初に会った時よりも少しだが感情が豊かになった。相変わらず、任務については仲間を見捨てて一人だけ帰ってくる事は多いけれど。」


一口、葡萄酒を口に含んでからそっと目を伏せる。良くも悪くも、こんなに悲愁めいた表情が似合う男が居るだろうか。

いつもとは違う鳶色の瞳がAへ向ける感情は、いつもと違ってみえた。



.

巫山戯た男の噺 。→



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 太宰治 , 中原中也   
作品ジャンル:アニメ
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y(プロフ) - まだ、見てます。こんなに端麗な日本語で綴られた物語を書ける方、中々いないです。最高の作品です。どうか、いつか続きが読めることを願っています (2月26日 19時) (レス) @page38 id: 02477a501f (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - 何周も見てるけどやっぱ飽きないし面白いです!!更新待ってます!!!!!() (2022年11月15日 14時) (レス) id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
おみず - お、おわり……??続きがまた見たいです……この先でも活躍するんだろう夢主ちゃん見たいです……!!! (2022年11月10日 23時) (レス) @page38 id: 0c3a3b3097 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫ニサナ - 更新待ってます!! (2022年3月14日 22時) (レス) @page38 id: 1c42f0d3fc (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - え、待ってめっちゃ好き。続き気になる…!更新待ってます、頑張ってください!! (2022年2月1日 17時) (レス) @page38 id: b5b9f86a00 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪原 ゆずき | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php  
作成日時:2016年8月4日 13時

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