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「懐かしいね、そんなこともあったな……」
「もう何年前やろ、10年近いか?」
「そんなになるんだ!?」
私たちはもう高校どころか大学も卒業して、立派な社会人だ。私は所謂普通の会社員、侑はプロバレーボーラー。違う道を歩んでいるように見えて、しっかりと道は交わっている。
「でも、なんかすごいねえ。私、平々凡々だし。それが10年近くも侑と一緒にいられるなんて」
「俺はずっと、Aが好きやけどな」
「ふふ、私もだよ。でもね、今も昔もたまに不思議になるの。侑は完璧に近いじゃない? 今はプロバレーボーラーとして世界からも注目される存在だし、私なんかでいいのかなって」
「卑屈禁止や言うとるやろー!」
「わっ」
また、抱きしめられる。ぎゅうぎゅうと少し痛いくらいに力を込めて抱きしめるのは、あの時から変わっていない。
「もー、Aは変わっとらんなぁ! 自信もってドーンとしときゃいいんや、ドーンとしとけば!」
「侑だって、変わってないよ。ハグするときの癖とか」
「……でもな、そろそろ俺、変わりたいんやけど。Aとのこと」
「え」
言われた意味が分からず、固まってしまう。「ずっと好き」と言ってくれたばかりだし、別れ話ではないだろう。と思いたい。
「俺な、ほぼAが初恋みたいなもんなん。自分から告白して付き合ったのって初めてやし」
「……うん」
ぽつぽつと語られるそれらを、じっと聞く。後ろから抱きしめられたままで、顔は見えない。
「それから、ずっと飽きることもなくお前だけが好きなん。笑った顔とか、たまに料理に失敗するところとか……。Aは自分のこと平々凡々とか言うけど、俺は言い尽くせないくらい全部好き」
くるっと体を回転させられて、侑と向き合う形になる。きっと、私の顔は茹蛸みたいに真っ赤だろう。
「ここ、」
侑が私の左手を手に取って薬指を指さす。
「ここに、俺からの指輪、はめてくれん?」
時が、止まったと思った。
言葉を何回か頭の中で反芻して、やっと意味を理解する。いつの間にか、瞳からは涙が溢れていた。
「……はい。喜んで」
「……ほんまに?」
「何で自信なくしちゃうの。ほんとだよ。好きだよ、侑」
「ちょっと待って、今幸せで顔真っ赤だから見んといて!」
「そんなの私もだよ……ふふ」
二人して顔を赤くして、夕焼け色の時はゆっくり流れる。
「大好きだよ、侑」
「俺は愛しとるけどな」
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作者名:有津 | 作成日時:2018年2月2日 16時