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翌朝。眠い目をこすりながら、私は駅まで向かっていた。もちろん、侑の見送りのためだ。
「侑〜」
「A!? 見送りに来てくれたん!?」
「あれ、言ってなかったっけ……」
「聞いてへんし、朝弱いからてっきり来んのかと……!」
「だって、ぎりぎりまで一緒にいたいじゃん」
少し不貞腐れて見せる。今朝は無性に寂しくて、早くに目が覚めた。
「……行きたくなくなったわ」
「いや、それはダメでしょ? もうすぐ新幹線きちゃうし、ほら、いい大人なんだから駄々こねないの」
「大人ちゃうもん。子供やもん」
「た、確かに今の侑はすごく子供っぽいけど」
今度は侑が不貞腐れてしまった。少し頬を膨らませながらの「確かにガキやないけど、Aを幸せにできるほど大人やない」の言葉に少しきゅんとしてしまったのは秘密。
「Aがキスしてくれたら頑張れる」
「……はい?」
「だーかーら! Aからのキスとか希少やから、してくれたら東京で頑張ってくる!」
何言ってるんだ、と一瞬にして頬に熱が集まってしまう。確かに早い時間帯だから、ホームはがらんとしているけれど……!
「ほら、早く」
こうなった侑はてこでも動かないと知っている。早鐘を打つ心臓を必死で鎮めようとしながら、背伸びをして素早く頬に口づけてすぐに離れた。
「えー、ほっぺた?」
「無理無理無理、これが限界! 大体侑、ここがどこかわかってる!?」
「駅のホームやな」
「二人きりならまだしも……」
「お、二人きりなら口にやってくれるんやな? いいこと聞いた。じゃあそれを糧にして頑張ってくるわ」
「えっ、ちょっと」
「じゃあな」と。手を振って、いつの間にかやってきていた新幹線にひらりと飛び乗ってしまった。
あっという間に扉が閉まって、侑とは暫く会えなくなってしまう。
「……やれるとは言ってないじゃん……」
彼のことだから、私なんて暫く離れていても平気だろうに。でも、帰ってきたら「お帰りなさい」と一緒にやってあげようかな、なんて……。私もだいぶ、侑に毒されたらしい。
「顔、暑いんだけど」
帰って二度寝しようと思っていたのに、目が冴えてしまった。いつだって彼は一歩上手だ。
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作者名:有津 | 作成日時:2018年2月2日 16時