君だから

君の好きなとこ absk version ページ38

「ちょっとお願いがあるんだけど」

改まって阿部ちゃんが俺の前に立つ。
表情が読めなくて。

「なになにー？ドキドキすんなー」

「俺にかわいいっていうのやめて」

え

「全然かわいくないし、あんまり嬉しくないし、むしろ恥ずかしいから」


「えーー！ムリ！だってかわいいし！」

「かわいくないから！禁止だからね！今度言ったら罰金とるからな！」

ばたん！と扉を閉めて楽屋から出ていってしまった。

はー！？


どしたの、急に。今までなにも言わなかったのに。

入れ違いにふっかが入ってくる。

「阿部ちゃん、何かフキゲン？そうに出てったけどケンカかー？」


「や、喧嘩じゃなくて…」


顛末をふっかに話す。

「ふーん、まぁ、とりあえず嫌ならやめてあげたら？」

「えー！無理！だってもう口癖になっちゃってる」

「その口癖感が嫌なんじゃない？かわいい言ってりゃ喜ぶでしょみたいな」

「そんなんじゃない！本当に本気で心底思わなきゃ俺は言わない！」



でも。
本気でも嘘でも。
とにかく嫌なんだよな…


じゃあ俺はこれから何て阿部ちゃんに愛を伝えたらいいんだろう。

しゅんとした顔を見て。

「まぁ、悩め」

ニヤニヤと。ふっかが言う。



楽屋を出て、非常階段の踊場へ。


ここからは街並みが一望できるし、外の空気を吸えるから好き。

重い扉を開くと外の風が気持ちいい。


「あ」


阿部ちゃんの後ろ姿。

俺に気がついて振り向く。



隣に座る。


「ごめんね」


咄嗟に謝ってしまう。


「…」

さっきの今だから少し気まずく。


「かわいいってもう言わないけど、阿部ちゃんの、その、オチャメなとこ、好きだから、俺、ボキャブラリーなくて。ごめん。」



ふっと、阿部ちゃんが少し笑った。


「もーいいよ、俺こそごめん、佐久間は悪くないのに。俺、何にも自信なくって。自分なりに強くなろうって、勉強が好きだから、強みにしたり、俺なりに頑張って来たんだけど」


うん。知ってる。
めちゃくちゃ努力家なこと知ってる。


「やっぱりその世界にはすげぇ人が沢山で。そういう人に肩を並べたかったらまだまだ俺なんて、なのに」

そんなことないし。
阿部ちゃんはすごいし。

「やっぱり全く敵わないこと思い知ってさぁ、自己嫌悪で佐久間に苛立って」


俺が100%悪いから大丈夫。

「佐久間が俺のことを好きなことに甘えた。だからごめん。」


そうだよ。大好き。


「かわいいって言われることに甘えてる俺が許せないの。」

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