君だから

Step one absk version ページ30

あそこじゃない？

小声で教えてくれる。

耳元に吐息がかかる。

それが想像以上にしんどい。

「あー！ほんとだ！あそこだよ！」

心臓の音を気づかれないように。

「佐久間！もう少しトーン落として！」

周囲に気を使って口の前に指を立てて、小さな子をなだめるようにシーッとする仕草がもう可愛すぎて見とれてしまう。

皆見て。阿部ちゃん、かわいいでしょって、大きな声で言いたいくらい。

俺のだけどね！

「何味にする？」


お店に近づく前に、携帯のホームページからメニューを選んでる。

ぴとっと肩を引っ付けて、携帯の画面を見せてくれる。


「俺はぁー、イチゴ！」
「うーん、王道だな！俺はココナッツにしようかなぁ…、でもチョコ…、いや、でもせっかくオーガニックだからやっぱりフルーツ系…」

ぶつぶつ悩んでる。

結構優柔不断だよね。

「二個食べたら？」

「そんなには食えねーよ」

「あ、店頭空いたよ！すみませーん！」

「あ！まだ決めてないのに！」


強引に阿部ちゃんの腕を引っ張って、店員さんへオーダーする。

いつもはすごく並んでるらしいけど、もう閉店間際、こんな時間にアイス注文する人少ないよね。

歩きながら食べる。

「あまー」

「甘くなきゃ、アイスなんだから」

いちいち正論言うのも好き。


「ちょっとちょうだい」

俺のイチゴ味をスプーンですくって食べる。

「あ！いちごの酸味もあるけど、マイルド！食べやすい！」

あー！やっぱりチョコじゃなくてフルーツにすれば良かったぁ！

って悔しがってるから。

「交換しよ？」


イチゴのカップを渡す。

「え？てか、佐久間のイチゴ、ほぼないじゃん！ずるっ！」

「えー、阿部ちゃん食べるの遅くない？」


「佐久間が早いんだよ！」


「これじゃあ佐久間1.5で俺が0.5じゃん！」




しょーがないなぁ。





ブーブーと文句を言う阿部ちゃんの唇をペロッてしてから。

ひるんだ隙間から深いキス。

ほんのりチョコの味とイチゴが混ざりあう。

アイスで冷えた感触が気持ちいい。


最後にちゅうっと唇を吸って、名残惜しいけどゆっくり離した。



「イチゴ味だった？」って聞いてみるけど。



怒った顔。





「次は絶対抹茶味にする…」


「え！やだやだ！俺、抹茶食べられないって！」


慌ててみたけど
プイッと俺に背を向けるから。

後ろからギュッと抱きしめた。




「ごめん、好きです」


真っ赤な耳元に囁く。


返事はない。


でも。

沈黙は肯定。


だよね？

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