君だから

Step one 2 ページ25

「ふっかー、ふっかー、あれ？帰った？」

阿部が俺を呼ぶ声が聞こえる。


帰ってない。
隠れてる。


「いないみたい。もう帰ったのかな？さっきまでいたんだけど」


「そっか…」

バタンと扉の閉まる音がする。




行ったかな…


ごそごそと机の影から這い出る。


「うぉ！ふっか、いたの？今照が探して…、呼んでこようか…」


「いや！いい！いい！俺はまだここにいたいから！」


仕事やレッスンが別々であっても、あれから照は毎日迎えにくる。

今までもたいがい一緒に帰ってたけど、告白があってからは必ずになった。

でも今日は、ひとりで帰りたかった。

理由は分かってる。

そういう雰囲気になるのが耐えられないから。

普通に話したり、笑ったりしてるだけなんだけど、ふとした瞬間の沈黙が耐えられなくて。

意識し過ぎ…なんだけど。

「無理だ…」


今も思い出しすと変な汗が出る。


「ふっか、顔色悪くない？」


阿部が心配してくれる。


「大丈夫、たぶん」


照が帰ってから小一時間、そろそろいいかな。

荷物を持って練習スタジオを出た。

「今から帰るの？」

「わっ！」


出た瞬間話しかけられて、事態が飲み込めなかったが、ドアの横には壁にもたれた照がいた。


「うっわ…、び、びっくりした…、帰ったんじゃかったの？」

「待ってた」

「そうなんだ、あ、ありがと」


「帰ろ」



歩き出す照の後ろを歩く。


また、背が伸びたかな。

いつ身長追い抜かれたんだっけ、去年は同じくらいだったのに。


そんなことを考えていたら、階段を降りきった踊り場で、急に振り向く。


「ふっか」

「な、なに！？」

「一緒に帰るのイヤ？」


ドキッとする。




照はいつも。遠回しになんか言わない。


「俺のこと避けてるでしょ」

「…」


「ごめん、悩ませちゃってるな」


「いいよ、もう。忘れてよ。友達でいいからさ、今までと同じふっかになってよ」



寂しそうに笑う照に、心がざわつく。
そんな、表情、させたくない。

「いつもみたいに隣、歩いてよ」

やさしく俺の頬をつねる。




「照…」


「ごめん」


「…謝んないでよ、余計キツイ」




少し怒ったように

また俺に背を向けて歩き出す。





少しずつ遠ざかる背中を、思わず掴んで。



「違う！違うって！」


「違わないじゃん、避けてるじゃん」


背を向けたまま。



言葉に詰まる。


「じゃあ、また隣歩いてよ、避けないでよ」


言いながら振向いて、やさしく俺を抱き締めた。

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