君だから

Extra dtnb version ページ23

らしくないことはしない方がいい。

暇を持てあました夜。

焦げたフライパンと、じんじんする左手の人指し指に、ため息をつく。

火傷ってどうしたら治るんだっけ…
冷やすんだっけ…

濡らしたタオルで巻いてみるけど、一向に痛みは収まらない。

「聞いてみるか…」



【はい、もしもし】

【うーす、今ちょっといい？】


【うん】

【あのさぁ、火傷ってどうしたら治る？】


【え？火傷？冷やして、塗り薬かな、なに、翔太、火傷したの？】

【大したことないけどね】

【薬あんの？】

【買ってくるわ】

【もう少しで仕事終わりだから、買って行こうか？】

【いや、いいよ、悪い、忙しいのに、じゃな】




指を見ると、少し赤くふくれてきた。
相変わらずじんじんしたまま。

「いってぇー…」

あーあ、なんであんなもん、作ろうと思ったのか。ついつい夜中にスイーツ特集なんか観たからだな。

ソファに寝転ぶ。
指に小さな心臓があるみたい。

薬買いに行くのも面倒だし。
この時間だし。

シャワー浴びてもう寝よう。
朝には収まっているといい。









いい匂いに誘われて目が覚める。



甘い甘い、砂糖の焦げる香り。



昨夜火傷したところが、きれいにガーゼでテーピングされていることに気付く。

「りょうた…？」


キッチンへ行くと、涼太がコーヒーを淹れていた。

「おはよう、まだ痛む？」


「来たんだ、いや、全然痛くない…」

「良かった、どうせ翔太、買いに出掛けないだろうなって」

優しく笑う。






テーブルにはきれいな焦げ目のフレンチトースト。

「これ、作ろうと思ったんでしょ？」


「…」


「すぐ焦げちゃうんだよね」

フフフと笑う。


「笑うなよ…」


「ゴメンゴメン、焼く間、テレビ見てたら焦げて、慌ててフライパン持って火傷した翔太が目に浮かんで」


ビンゴだわ。


「うるせーよ」

「ビンゴでしょ」

また目を細める。

プイッと涼太から目を逸らして。

ひとくち食べる。



「…うわ！うまっ！」


「翔太の口に合わせてあるよ」


「砂糖多めのシナモン風味」


「へー！うまい！」


「良かった」

優しく笑う。

「レシピ、書いといたから」

「いらない！」

「え？」

「また涼太が作って」

「簡単だよ？」

「また火傷するぞ…」


なにその脅し文句…、と呆れたように呟いてから、

「了解」

と言って笑う。




結局涼太は俺に逆らわないもん。

昔からね。

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