君だから

バレンタイン ページ2

「お疲れ様です！岩本さん、これどうぞー！」

「お！ありがとうございます！すげぇ！高そう！」

「マルコリーニです！奮発しちゃいました、デビューおめでとうございます…」

数人の女性スタッフさんに囲まれてキャッキャッと、嬉しそう。

「ありがとうございます！頑張ります！」

笑顔全開でお礼を言ってる。

楽屋の前の、廊下の死角、角を曲がった途端


「うぉ！ビックリした！ふっか、いたの？あれ？今日なに？」

単独の仕事の撮影だったから、俺がいたことにかなり驚いてる。

「雑誌の取材で、たまたますぐ近くのカフェだっから。マネージャーに聞いたら入れてくれてさ。」

なんだか早口になってしまった。

「珍しいじゃん、そうなんだ、メシでも行く？」

「いや、夜ちょっと先約」


「あ、そうなんだ…」

「じゃあ俺行くわ、じゃな」

「え？待って待って、なにしに来たの」

「いや、なんも、元気そうでなによりで」

「は？なになに？なんか怒ってるの？」


「怒ってない」


「ちょっとふっか？おかしくない？」

照に背を向けて歩き出す。

瞬間後ろから楽屋に引き込まれた。

内側のドアの前に押し付けられて。

「…てか、壁ドンはもう古…」

言いかけたところに軽いキス。

唇を離して、鼻先に照の顔。
ニヤニヤしてる。

「ちょーだい。」

「は？なんのこと？」

「チョコ、持ってきてくれたんでしょ？」

「…」

「顔に書いてあるよ」

耳まで赤くなっていくのが分かる。
思わず下を向く。


「夜でよかったのに。先約とか、ウソでしょ。」

なんだ、お見通しか、恥ずかしすぎるだろ、
自分で自分がいたたまれなくなって。


勢いよく顔をあげると、照のアゴにヒットしてしまった。

「いてぇ！」

「あ、ゴメン！」

アゴをさすりながらしゃがみこむ照に、鞄の中にあった箱を渡す。

「マルコリーニじゃねーけど」

箱、じゃなくて俺の腕を掴んで引寄せる。

「ふっかのくれるのが一番嬉しい」


ギュっと抱きついてくる照の腕のなかで、何だか気持ちが軽くなる。


「はぁ。」

「なんのため息？」

俺って単純…

「マルコリーニ、食べたい。」

「夜、一緒に食お。」


そう言って、またぎゅうっと腕に力を込めて抱き締める。

その胸をぐいっと突き放して。

「夜はマジで先約。」
そう言ってドアを開けた。

「ええー！何でだよぉー」

照の声を背中に左手を振る。
右手にはマルコリーニ。

持ってきちゃったもんね。
これは。河合くんにあげよう。

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