悪い狼にはご用心〈三好〉 ページ16
「A、いるか？」
コンコンッと部屋をノックするが、不在なのか物音一つしない。
不思議に思ってドアを開けると、本人はいた。
居たには居たが…
「(寝てる、)」
呼吸音すら聞き取るのが、難しいほど深く眠っている。
一応の配慮で、ゆっくりと近づいて、折角だから、だらけきって無防備過ぎる寝顔をマジマジと見つめる。
「(これだけ見て居ても起きないとは、死んでるのか？)」
喉に手を当てるが、脈はある。
「(流石に生きてるか。)」
何が原因でこんなに熟睡しているのか。
不思議だったが用がないし、資料だけ置いて立ち去ろうと机に近寄ると、
するとあり得ないものが机に置いてあり、バサリと思わず手から資料の束が落ちた。
「これは…」
瓶に入った数個の白い錠剤。
「(この状況から考えて、まさか自分の意思で呑んだのか？)」
信じられない憶測が過ってゾッと寒気がした。
「(睡眠薬がないと眠れないって、スパイ失格だろ。)」
ベッドの上で仰向けに横たわる阿保面に苛立ちを覚え、問答無用でその上に跨った。
「(男だらけの所で、不必要に眠る意味を教えてやる。)」
苦しそうな表情に、焦りと高揚感が募って、その無防備な唇に口付けようとした瞬間、
ぱかっと開いた瞼、
「え、」
突然の事に鼻先で動きが止まる。
やがて状況と理解が合致したのか、真っ青になった。
「…ちょっと待って、これはなに？」
ガシッと遠慮なく顔を顔を仰け反らされて、するっと抜け出された、
「(不覚。)」
「何がどうしてこうなったのか、説明して貰いましょうか？」
怒気たっぷりの物言いに、Aの目は軽蔑に染まっているが、ならばとこちらも返す。
「わざわざそれを呑むほど、眠るのに苦労してるので？」
「ああ、これ？
この瓶はただの下剤よ。」
「何故そんなものを？」
「たまに神永が頭のおかしい発言をするから、対自白剤用に。」
「下剤では自白剤への抵抗になりませんよ。」
「知ってるわよ、ただの嫌がらせ。」
「では何故あんな所で寝て居たんです？」
「昼寝よ？駄目？」
こてんと何も考えずに尋ねてくるアホさに、頭にくる。
ガシッとその細い腰を取らえて、離れられない様に引き寄せる。
「ちょっと？」
「貴女は何もわかってない。」
「分かってないのはどっちよ。」
「こんな無防備に寝て居たら、」
悪い狼に食われますよ、
耳元でよく聞こえるように囁いた後、そのまま口付けた。
ーーー
耳へのキスは"誘惑"
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作者名：アサノ | 作成日時：2017年8月23日 6時
