自惚れるな〈波多野〉 ページ14
ボロいビルの地下から男の叫び声が聞こえてくる。
「もういっそ、殺せぇえっ！！！！」
凄まじい怒号が、戸の向こう側から聞こえてきたと思えば、声にならない声が響いてきて、思わず舌打ちをする。
「…もうちょいだな。」
時計を見て確認し、手持ち無沙汰になって本を読む。
適当なところで栞を挟むと、ギイっと扉が開いて、"予定通り"に出て来た。
「ふう、やっぱり男の拷問は疲れるわ。」
「ほらよ、お疲れ。」
側にあったタオルをペイッと投げつける。
Aは手に飛び散っている血を拭いた後、
「これ、洗っておくわね。」
ニコッと笑ったその笑顔に、ついさっきまで拷問をしていた女とは思えない色気がある。
「いや、俺が持ってる。」
バシッと引ったくったそれを、キョトンとした間抜けな顔で眺めていたAは、すぐ隣に並んでにこにこと笑っていた。
「何笑ってんだよ。」
「いいえ、今回の男は貴方とは大違いだなと思って。」
「それはどういう意味だ？」
「貴方はこんな私を見ても"逃げない"じゃない。
それなのにあの男ったら、わざわざ舌を噛もうとするから、ついね、」
ズボッと音がつきそうな動作で、口に突っ込んだ事を言いたげなAに、はああっと盛大に呆れる。
Aのこの咄嗟の動作に"変な扉"を開くやつも多く、正直俺たちですら、気味が悪いと感じる奴らもいる。
で、傷をつけられた本人は、そっちの方が情報を得やすいからと言っていつまでもやめない。
呆れて突っ込む気も失せる。
「なんでわざわざ手を突っ込むんだよ。
馬鹿か？」
「酷いわね、ついよ、つい。」
ヘラヘラと笑う顔に思わず"何か"が弾けた。
ひらひらと戯けたように振られた手を、パシッと掴んで引き寄せる。
「ちょっと、」
「へえ、ならこういう事されても、やめないって言えるのか？」
傷のついた手を握りしめて、わざわざ顔面まで持って来て、音を立てて吸い付いてやる。
ブワッと赤く染まった顔を見て、目を離さず手首にも跡をつける。
「で、いつ手を引っ込められんだよ。」
意地悪く笑ってやると、ぎっと眉を寄せて睨みつけてくるA。
「いい加減、離してっ」
珍しく声を荒げたAは、早足で逃げるように廊下の向こうに行く。
その背に向かって見えないようにニヤリと笑う。
「(そうだ、そういう顔をしてろ。)」
そうでなければ、面白くない。
ーーー
手の平へのキスは"懇願"
手首へのキスは"欲望"
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アサノ | 作成日時：2017年8月23日 6時
