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まさかね、と思っていると、ゲンがニッコニコでAと千空の前ににやけ顔を晒す。
「千空ちゃん、何ぼーっとしてんの、ほらほら。あげるだけじゃなくてちゃんと髪に刺してあげないと。」
「ゲンてめえ調子に乗るなよ。」
ゲンにせっつかれて、Aとガラス細工と美しい刺繍の入った簪を交互に見た千空は抗議した。
ニッコニコ顔の彼に、千空は苦虫でも噛み潰したかのような顔、一方のAはそこまでいじらなくてもとゲンを咎める目をした。
「(それに、)」
どうせめんどくせえと言って断ると思っていたら、返答は予想外だった。
「はあ、もういい。
おいA、そこに座って望遠鏡でも見てろ。」
「え??何よこういうのめんどくさいっていうタイ「いいから座って見てろ。」…ったく何よ。」
荒々しい態度とは裏腹に、簪は丁寧に渡したA。
ストンと座り天体望遠鏡の内側を見た彼女、さわりさわりと恐る恐る伺う指先が一周回ってくすぐったい。
あの綺麗な簪を千空がAに作ってくれたのは確かに嬉しかった。
元から手先が器用な人間なのだ、大樹からも何か貰えと3700年前もよくせっつかれていた。
「(簪は嬉しいけど誕生日に誕生主に送ってもらう上に、みんなの前で結われるのは流石に恥ずかしいな。)」
それにAが簪を贈られて恥ずかしがる理由はもう一つあった。
「(簪を贈るのは求婚の証、まあ千空は知らないんだろうな。)」
少し残念そうにしながら、Aは微笑む。だが千空もAの表情に気が付いていない。
「(チッ、メスゴリラがいうから信用したが裏で糸を引いてたのはゲンか、謀りやがったな、あいつ。
しっかしそれにしてもさっきのこいつの反応。
どーでもいい知識は持ってるくせに、簪贈る意味に気がついてねえな。)」
相変わらず気がつかない二人だが、ゲンは二重の贈り物作戦に、内心笑い、二人っきりにするために村の衆を引き連れて退散した。
「ねえ千空。」
結い終わった彼女を呆然と見ていた千空は、なんだと言って顔を上げた。
Aはゆるりと笑う。
「ありがとう、まさか誕生日主に贈り物をもらうなんてね。」
「ああ、まあな。」
「でもどうして今日だったの?」
「俺はお前の誕生日を知らない、それに、」
じっと見つめた紅玉色の瞳。
「それに?」
「それにいつ死ぬともしれねえんだ。」
ゆるりとガラス細工の一片に触れた千空は笑った。
「いいだろこれくらい。」
「ええ嬉しい。」
そう言ってAも笑った。
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イライザ(プロフ) - ベルモットさん» ありがとうございます、そう言っていただけるのがとても嬉しいです。 世界観に入り込めるというのは、多分夢小説を描く人誰もが描く人誰もが欲しい言葉だと思います。これからもみていただけるように、精進しますね。いつもありがとうございます。 (2021年4月28日 8時) (レス) id: d70a88eee0 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。以前から感じていた事があります。それは、世界観に本当に入ったような気持ちで、夢小説を読めれる魅力があるイライザさんの小説には、あると思います。夢主が、研究者的なキャラで好みでした。 (2021年4月28日 6時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イライザ | 作者ホームページ:
作成日時:2021年4月27日 23時