弔い ページ35
サルファ剤の効力により、突然病原菌が活性化したルリの体。
対抗する術はサルファ剤にあり、ついに200万年の時間を経て人類の勝利を得た。
ほっとしながらも百物語を上の空で聞いてたAは、空を見上げた。
3700年前、残された時間を千空の父親やその仲間たちがどう過ごしたのか、想像に難くなかった。
どうしてこの地で日本語がまだ生きていたのか、どうして、私たちが今この場で彼らと助け合えるのか。全ては遥か昔に残した千空の父、百夜によるものだった。
涙を流しながら話を聞いていたAは、煌々と無慈悲に光る月とその空を見上げる。
何を思って千空の父は彼らを残してくれたのだろう、生き方を教えてくれたのだろう。
歪な変化を遂げてもなお、残ってきたそれらはもはや奇跡の類いだった。
「っ、」
膝を抱え、窓辺に寄りかかったAはもう話を聞き続けるのに耐えられる体ではなかった。
「A、」
慌てて、千空が追いかけると、追いついた先に広がっていたのは、
「こいつは、、、」
「前に地図を書こうと思って踏み入ったら、見つけたの、多分、あの集落の代々の墓跡でしょうね。」
そう言ってすっと指を刺したAは遠くの、やけに月明かりがよく刺す場所を見つけた。
「あれ、多分千空のお父様じゃないかしら。」
「……悪いここにいてくれるか?」
「ええ、」
そう頷いたAに、千空は一瞥してから踏み入った。
たった一人の男の背中、彼が踏みしめたからこそ、今時間が始まっている。
もしもここに来ることがなかったら、どうなっていただろうか。
Aはやるせない思いを抱きながら、静かに瞑目した。
Aは千空の父、百夜を知っていた。
何故なら彼女の叔父が、百夜だったから。
快活で、かっこよくて、親父っぽくて、なかなか仕事から帰ってこないAの父親と母親に憂えて、よく千空と一緒に面倒を見てくれていた。
Aにとっても千空にとってもいい父親だ、大学で先生をやっていて、くだらないやりとりや、情緒を持ち合わせたとても人間らしい人だった。
そんな人に人生の半ばまで育ててもらったAは、千空の代わりと言わんばかりに、緩やかに涙を流した。
嗚咽も、鳴き声も漏らさなかったが、それでも止めどない涙は、もう永遠に会えない人を思わせる。
「はあああ……」
どれだけ力を尽くしても、得られないもの越えられないものがある。
悔しさもあるが、それ以上に百夜の暖かさを3700年経った今でも感じてしまうA。
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イライザ(プロフ) - ベルモットさん» ありがとうございます、そう言っていただけるのがとても嬉しいです。 世界観に入り込めるというのは、多分夢小説を描く人誰もが描く人誰もが欲しい言葉だと思います。これからもみていただけるように、精進しますね。いつもありがとうございます。 (2021年4月28日 8時) (レス) id: d70a88eee0 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。以前から感じていた事があります。それは、世界観に本当に入ったような気持ちで、夢小説を読めれる魅力があるイライザさんの小説には、あると思います。夢主が、研究者的なキャラで好みでした。 (2021年4月28日 6時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イライザ | 作者ホームページ:
作成日時:2021年4月27日 23時