出発点 ページ19
翌朝、日の出を迎えてすぐだった。
千空はグッと伸びをしながら朝日を浴びた。
本当は自分が土の上に建てられた竪穴式住居にいたかったが、この物見小屋がクロムのものである以上、クロムを追い出してまで自分が物見小屋に行くわけにはいかない。
と言いそうなAを考慮して、仕方なしに千空も物見小屋にいた。
人の気配がしてなさそうなこじんまりとしたAの小屋。
それを数秒見つめていた千空は慌てて、木の階段から降り、A!と声をかけながら、扉代わりの藁を捲る。
が、既にAの姿はなかった。
代わりに、麻布の上には手作りらしい筆と、木炭から絞って作られた墨によって丁寧に置き手紙があった。
「2日おきくらいに戻るわ、何かお使いがあればその時に。
戻ってきたら顔を見せるから、千空も頑張って。」
大樹や杠に比べたらほんの暫しの別れかもしれないが、3700年前からあっという間に変わってしまった昔馴染み。
行ってしまった彼女に、千空は少しだけ眉を寄せて、ばぁか、と呟いた。
ーーー
事情を聞いた千空はそうかと考え込みながら、優先順位は「ルリ」という少女の病気を治すことだろうと考えついた。
というかAがここにいてもそう示唆しそうなくらい、目的は単純明快。
恩を売って、科学帝国の一員にするためだ。Aが思いつきそうなことを千空がしないわけにはいかない。手始めに揃えるは実験室、そのためにも鉄は必要不可欠だった。
河原に砂鉄を取りにきた彼らだが、磁石を元に採取を進める。
ぽちゃりと水面に映る自分の顔を見つめ返した千空は、徐に腰を上げた。
あれから2日経つがまだAの姿は見ていない。
行って帰ってくるくらいにどうしてそんな時間かかるんだかと思っていると、パシャと水音が響いた。
見れば巨大なカゴを肩に背負った少女が一人立っていた。
「A?」
飛びつきこそしなかったが驚いた声を上げた千空、そしてお姉さん誰?と彼の傍のスイカが不思議そうに尋ねた。
Aは土埃に塗れてはいたものの、いつぞやの時のようなひどい格好はしていなかった。
「ずっと海岸沿いに歩いていたのよ、千空、言われていなかったけどきっと貴方ならこういうの望むんじゃない?」
そう言って差し出されたのは、カゴいっぱいに入った微量の砂と、、
「わわわわっ、スイカの石が真っ黒に!!」
スイカが持っていたらしい磁石に全て砂鉄の粉がひっついてしまった。
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イライザ(プロフ) - ベルモットさん» ありがとうございます、そう言っていただけるのがとても嬉しいです。 世界観に入り込めるというのは、多分夢小説を描く人誰もが描く人誰もが欲しい言葉だと思います。これからもみていただけるように、精進しますね。いつもありがとうございます。 (2021年4月28日 8時) (レス) id: d70a88eee0 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。以前から感じていた事があります。それは、世界観に本当に入ったような気持ちで、夢小説を読めれる魅力があるイライザさんの小説には、あると思います。夢主が、研究者的なキャラで好みでした。 (2021年4月28日 6時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:イライザ | 作者ホームページ:
作成日時:2021年4月27日 23時