13 ページ13
千空は夢を見ていた。
このストーンワールドで目覚めてしまった時の絶望感と、それに伴う自覚の数々。大自然に対抗するために先輩方が残した遺蹟の数々。
そして、胸の中に一つだけ残っていた感触も。
「……」
大樹を見ていて、鏡写のようにあの女のことを想像してしまっていた千空は後悔していた。今更こんな感情を引き出されても困るだろうに。
＿なんで今更お前なんだよ。
ただの淡い恋心だ、恋愛脳だと宣った今まで敬遠してきたそれは、いずれあと四、五年もすれば消えてしまう。
だからこんなものは、
「あっ、く、」
声を押し殺す、思い出してしまうのは再会の夜。
感動する間も無くボロボロな姿をしていたあいつに対して、それをどうこうする気はなかった。
そう伝えたはずなのに、Aはそれでも千空が自分の命を握っているとすら思っていた。
「そんなことしねえよ、」
真っ正直にそういったはずなのに、あの女の目は震えていた。
多分、何よりも多くの著作物に触れてきたあいつだからわかっていたのだろう。
これからどうなってしまうのか、人間がどれほど多くの歴史を歩み、どれほど多くの結果を招いたのかも。心理分析のようにあいつの中には思考回路の系図が出来上がっていて、それが幾重にも組み合わさっている。
「こうなっていたから、きっとこうなる。」
科学実験の予想の真逆、決めつけをあの女がしてしまうのではないかと。
千空に当て嵌めてしまい、蚊帳の外に追いやられてしまうのではないかと思うと、恐ろしかった。
俺だけ見てれば、それで十分だろうが。
ある意味司よりも厄介だ、ばかやろう。
信じて欲しいのに信じてもらえないのは心にくる。
「信じろよ、クソが。」
ゆるりと温かい感触がうなじに触れた。
＿＿おそらく第二頚椎で、骨髄や骨以外にも靭帯を伴う、人間の急所
「ああそうだよ、これは俺なりの覚悟と賭けだ。
だから信じて待て、能天気女。」
そう言葉にした瞬間、何かがどつかれたように意識が戻ってきた。
失っていた時間を取り戻すように、不可解な感触が這いずり回り、目が覚めた時には、
「あっ、起きた。」
まるで今しがた昼寝でもしていたかのように、あっさりと言葉にしたA。
しかし軽やかな言葉とは裏腹にその両目には、涙がたっぷりと溜まっていた。
「ああ、そうだ、千空様のおかえりだ、あほ。」
そう言いつつ、緩やかに寄せられた額に、眩しく千空は目を細めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 145人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イライザ(プロフ) - ベルモットさん» ありがとうございます、そう言っていただけるのがとても嬉しいです。 世界観に入り込めるというのは、多分夢小説を描く人誰もが描く人誰もが欲しい言葉だと思います。これからもみていただけるように、精進しますね。いつもありがとうございます。 (2021年4月28日 8時) (
レス) id: d70a88eee0 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。以前から感じていた事があります。それは、世界観に本当に入ったような気持ちで、夢小説を読めれる魅力があるイライザさんの小説には、あると思います。夢主が、研究者的なキャラで好みでした。 (2021年4月28日 6時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イライザ | 作者ホームページ：
作成日時：2021年4月27日 23時
