ら 駆け引きの行末 ページ23
[行ったか?]
[ええ]
スッとAは、甘利の口の端から自分の唇を退けた。
それを名残惜しそうに眺めた甘利は、余程表情が表に出ていたらしい、
訝しげな表情をしたAは何してるの?と冷たく言い放つ。
[覚えがあるのか?]
[……いいえ。]
[本当か?]
[それ以上は聞かないで。]
さっきのあの手捌きはなんだったのか。
一気にムードの失せたこの雰囲気に、自嘲的に呟いた甘利は、ごく自然にAの手を取って歩き出していた。
「甘利っ、」
小声で注意を促したAは、クイッと一度繋がれた手を引いた。
が、気にせずにずんずんと歩き出す甘利に、困惑するA。
どこへ行くの、Aの小声の訴えに、甘利はふうっと小さくため息をついて頭二つ分も小さいAの耳元にこう囁いた。
「君の知らない所。」
ふうっと吐息を含ませた突然の台詞に固まるA。
甘利は、ついでにと言わんばかりにちゅうっと耳たぶに吸い付く。
Aは、つっと甘利にだけ聞こえる音量で、小さく声をあげた。
「ん、可愛い。」
「…狙ってたわね。」
涙目どころか、女の敵でも見つけたような目つきの彼女は、羞恥を通り越して屈辱という顔をしていた。
まるで今にも"殺されそう"な目つきで背の高い甘利を睨みつけている。
流石D機関の"箱入り娘"。
こんな具合では後百年かけても陥落しそうにない。
並みの男なら尻尾巻いて逃げ出すだろうが、普通ではないのがD機関の特色。
殊に甘利の場合は、こうでなくてはとニヒルに笑う。
こうでなくては、
「(落とし甲斐がない。)」
だからこそ同類のライバルまでゴロゴロ惹き寄せてしまうのだろうけど。
自嘲的な漏れ笑いを堪えて、甘利は上機嫌でAの手を取って街に繰り出した。
大丈夫俺がついてる、最後の最後にそう耳元で囁かれたA。
「そうですか、期待してないので大丈夫ですよ。」
「つれないなあ、」
と盛大に振られた哀れなスパイ。
だが今更、といった感じで笑っている甘利に、無性に腹がたったAは、握られた手を別の手で、ぎゅううっと甘利の手の皮を捻った。
「いったああ!、」
「ふんっ、私にハニトラを仕掛けるのは百年早いです。」
ごもっとも、涙目で答えた甘利はそれでも手を離さない。
一方Aも繋がれた手を当たり前のように引っ張っている。
さて、この茶番はいつまで続くのか。
"役者"が出揃うには、もう少し余興も必要だ。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます!もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです! (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アサノ | 作成日時:2017年7月9日 14時