い プロローグ〈春〉 ページ2
街道の桜がほころび始めた頃、背広姿の青年が一人、古びた館から出て来た。
黒く豊かに生えた黒髪を無造作にかきむしり、古びた館に一瞥くれた後、街道を南下していく。
その途中立派に咲き誇っている桜を目にして、青年、佐久間中尉は立ち止まる。
いや正確に言うと、桜の木の下にいる見知った女性を見つけて立ち止まった。
「A殿」
「はい」
Aと呼ばれた女性は、少女か婦女子の境にいそうなあどけない表情のまま振り返った。
黒く長い豊かな髪が揺れて、ほの白い�とのコントラストがより一層髪の美しさを引き立たせる。
控えめに微笑んだ女は、佐久間から眼を逸らすことなく向き直って尋ねた。
「どうされたんです？
お散歩ですか？」
「いいえ、自分は中佐のところへ寄っていた帰りです。」
問われた質問に答え、ちらっと桜を一瞥してから、佐久間も同じように答える。
「そういうA殿のほうこそいかがされた。」
「私ですか？
私はただ…」
はっきりとは口にせず、ふふっと微笑んでから、振り返って再び桜を見上げた。
「この桜を見ていたんです。」
答えのようで答えでない答え。
そんな曖昧な雰囲気は、今にも彼女がどこにか消えそうな雰囲気だ。
するとまるではかったように、春の風が二人を巻き込むように吹き抜けた。
突風に煽られた瞬間、佐久間は不思議なものを見た。
それはぬばたまの間の白い頬に、透明な水、
涙が垣間見えた、ような気がしたのだ。
「(泣いてる、)」
本能的そう思った、
あのAが泣いてる？
あり得ない、そう頭が答えを弾き出す。
ところが身体は彼女の元に駆け寄ろうとしていた、
が、風が止み幻想にも似た綺麗な瞬間は消え、
駆け寄る佐久間をそこに縫い止めるように、Aは唐突に質問をした。
「佐久間さんは、この桜の名をご存知で？」
唐突な質問に佐久間は狼狽し、思わず駆け寄ろうとしていた足を止めた。
見つめる先を桜に移す。
薄紅色で五枚の花びらをつけた桜の名を、趣深い教養がない佐久間が分かるはずもなく、困った様子で首を横に降る。
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アサノ(プロフ) - masyさん» 返事が遅れてすみません。そんな風に言ってた抱けるだけでとっても嬉しいです。masy様と趣味が合うなんてこちらこそ光栄です笑 (2017年12月27日 1時) (
レス) id: 35d7b1e41a (このIDを非表示/違反報告)
masy - ハリーポッターのも読んでます！もうアサノさんの小説が好きすぎて……(笑)とても面白かったです！ (2017年12月24日 20時) (レス) id: 065dd9adad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アサノ | 作成日時：2017年7月9日 14時
