第三二訓 ページ32
「…国に言ったのは私よ。本丸が崩壊しかけてるから助けてやれって。審神者がいなくなって数十年もした頃、やっと生きていた残りの刀が救出されて私のいた本丸へと見送りになったと聞いたわ。
…まぁ、審神者が居なくなる経緯の前に光儀を殺したのは、私と、岩融よ。そういう意味では、あんたたち三人にとっての仇でもあるわけね、私は」
女の旦那はブラック本丸の主であり。
また小狐と三日月、一振の主であり。
そいつを殺したのは、目の前の二人。
「…二つ目。あんたは、主を。…Aを、愛しているのか」
その答えには、女は答えない。
岩融も、答えようとはしない。
「…答えてくだされ」
小狐の問い。
女は少し黙り込んだ後、笑う。
「愛せるわけないじゃない。…結婚してからも本丸は別のまま。別居したまま。たまにあったかと思えば夜枷を求められるし、殴られる、蹴られる。
そんな男との間に出来た子よ。…無理やり、間違って、生まれてきた子よ。
はは!愛そうとも思わなかったわっ」
小狐丸は一歩踏み出す。
岩融が警戒心を強めたが、気にせずに叫んだ。
「どうしてそんな事を笑っていうのです!!!あなたのせいでぬしさまがどれだけ苦しんだか!」
「私だって苦しかったわよ!!分かったような事いわないで!」
「それでもあなたは母親でしょう!!どうして幼いぬしさまを置いて行ったのですか!!」
はぁ、と二人は同時にため息をつく。
火花の散るほどにらみ合う二人。
この話に、正しさも間違いも、ない。
「おんしは、阿保じゃの」
「吉行、」
岩融はおや、と声をあげる。
「…あれだけの歴史修正主義者を、ねぇ」
三日月と小狐はその声に振り返る。
外での戦闘が終わったんだろう、皆血に塗れたまま、そこに立っていた。
「Aは何も知らぬまま、己の名さえ呼ばれぬまま、孤独に生きてきた」
「…っ、でも、吉行だって光儀の事…!」
「ああ、あん人は…光儀は、最低な人間じゃった。…じゃけんど、それはAには関係ないぜよ」
「あ、あ、」
「おんしゃあ自分の腹を痛めて産んだ子を見殺しにしたんじゃ。あの子は周りには明るく振る舞うし、人を気遣えるええ子じゃ。…あんたに似て、人には甘い。好かれてはおらんと分かっててもおんしには笑顔で駆けて行った」
「…、」
「おんしの笑顔が偽りだと、そこに愛などないと知っていても。…ただ一人の、家族じゃったから」
審神者とは。刀剣とは。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます!!すごく面白かったです。完結お疲れ様でした!第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした!とても面白かったです!小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした! (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか?面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです!宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:稜 | 作成日時:2015年4月10日 14時