第二四訓 ページ24
「…でもやっぱり、怖いんだ」
その目には、迷い。
「思い込んでた、母様は岩融に無理やり連れてかれたって」
記憶が無いわけじゃ無い。
ただ、思い出すのが怖いだけ。
そう思い込まないと、母様を疑ってしまう自分がいる。
あの時、母様は岩融を怖がってすらなかった。
母様は、無理やり、ましてや私の命を救う為に自分を差し出したわけでは無い。
それを、思い出しては。
「言ってみろ、A。…思い出せ」
「…ッ、」
ーーー思い出さなければ、進めぬというのに。
あの日。
母様の部屋の前で聴いた事。
『ああ、主。お前を我がものとしたのだ、俺は』
『…本当に可笑しいわ。もういないとはいえ、私には旦那がいるの。それに…人間と刀なんて』
『主の旦那を殺したのは俺だ。…分かっていて側に置くとはお前も狂うておるよ』
母様は、一度旦那がいると断って。
でも、人間と刀だからという、意味をつけた。
『名前さえ、もらえればお前は俺のものになるというのに』
『……言霊とはよく言うけれど本当にたった数文字で命を、存在を縛れるなんて。…教えないわよ？』
『…そんなに、俺の事が嫌いか』
『違う。…私は―――』
私は。
母様は。
私は。
「己が神に成る自信がないだけ。神と、夫婦となる自信がーーー」
「…ああ、なんだ、知っていたのか」
三日月はAの言葉に笑う。
「名を取られるという事は。神に身を捧げるという事だから」
神隠しにあったわけではなく。
無理やり、連れ去られたわけでもなく。
『岩融！この子には手を出すなと…！』
『俺はお前さえ手に入ればそんな約束どうでもいい』
ほつれた、記憶が絡み合って。
『私の娘なのよ。…愛して、ないけど』
『……ああ、だから俺が愛をやると言っている。なれ、こいつを娘と思えば殺すには惜しい。…しかしまだ、俺のではないからな』
『また、そういう。…好きになってしまうじゃない』
『ああ、堕ちてこい。俺のところまで』
『…わたし……私の名前、は……』
ああ、母様はきっと最初から父さんを愛してはいなかったんだろうとそこで思った。
私の、ことも。
ただ、刀と人という交われぬ境界線を越えられなかっただけ。
父さんを愛していたから岩融に名を教えなかったわけではなく。
事実、母様は三日月に、私の名を、私自身を、売ったようなもので。
気付かぬようにしていた。
それに気づいてしまったら。
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黎奈(プロフ) - はじめてコメントさせていただきます！！すごく面白かったです。完結お疲れ様でした！第四訓で宗三左文字が宗山左文字になっていらっしゃるのでご報告させていただきます。あと、ちょこちょこ報告に来るかもしれません… (2015年10月18日 22時) (
レス) id: 339ceb4b4b (このIDを非表示/違反報告)
華維璃(プロフ) - お疲れ様でした！とても面白かったです！小説の書き方、参考にさせて頂きます<(_ _)> (2015年9月22日 20時) (レス) id: 5dbf713d35 (このIDを非表示/違反報告)
連合(プロフ) - お疲れ様でした！ (2015年7月19日 17時) (レス) id: bbc5de6b90 (このIDを非表示/違反報告)
らい兎(プロフ) - 第三四訓の「突き出ているのは日本の大きな角。」というところもしかして日本→二本でしょうか？面白かったです。 (2015年7月13日 23時) (レス) id: 5d4b050560 (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - お疲れさまでした、面白かったです！宗近のじいちゃんが入手できないのが痛いですね。 (2015年7月10日 19時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：稜 | 作成日時：2015年4月10日 14時
