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「三島さん、私と一緒に見ましょうよ、動画！ ぜーったい、気に入ると思いますよ！」
「いいわよ私は……」
「LIMEでお勧めの動画送りますから！ 見てくださいね！」
次の講義始まっちゃう！ 去っていく背中を見送る。さんざん私に意中の人の話を押し付けるくせに講義は真面目に受ける彼女は、常識があるんだかないんだかわからない。図書準備室に戻って、ぼんやりと図書館の中を眺める。
ふと視界の中に入り込んできた、色素の薄い髪色に気づく。背表紙で本を探しているのか、きょろきょろしながら歩き回る彼。危なっかしいと思っていたら、ついに曲がり角で曲がり切れず、わき腹を強打していた。しばらく痛みに耐えるようにその場に留まって、少し赤く染まった頬をたたえながら周りを気まずそうに見渡す。
――あ、目が合った。恥ずかしそうにはにかんだその人は、じきに本棚から本を抜き取ると、カウンターの同僚に声をかけ、貸出処理をして出て行った。
「エミさん、相変わらず怖い本ばっかり借りていくんだから」
「え？」
「エミさん知らない？ 非常勤講師の。いっつも戦艦とか独裁政治とか、ちょっと怖い本を笑顔で借りていくんだよねえ」
エミさんというのか。あの人。その後も同僚と会話を続けると、いろいろな小さい情報が意図せず得られた。政治学の先生で、生徒からは先生ではなくエミさんと呼ばれていて。いつもは都内有数の進学校で教鞭をとっているらしいとか、たまに友人と仲良さそうに校門の前で言い争っている姿を見るとか。……変な人。でも、人に好かれそうな人。
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作者名：三津 | 作成日時：2020年4月16日 17時
