番外編_五条の話 ページ28
「ほい、土産」
Aがぽいっと投げて寄こしたのは、激辛ご当地クッキー。
「悟好きでしょ、辛いの」
なんて、笑っているA。
「はぁぁ、過去の僕に苦しめられてるよ」
深い溜息を零す僕に、Aは怪訝そうな顔をした。
「は？礼ぐらい言えや」
「アリガト」
僕の手の中に収まる真っ赤なパッケージのお菓子に、懐かしい気持ちに浸る。
.
高専時代の僕は、天邪鬼で素直になれない、良くいえば初心、悪くいえば餓鬼な性格だった。
「悟〜」
「あ？」
「辛いものフェアやってるらしいんだけど、一緒に行かない？」
激辛好きなAは、見ているだけで辛そうな鍋料理がプリントされたチケットを二枚、僕の目の前に差し出した。
「硝子と行けよ」
「苦いものはいいけど辛いのは専門外だと」
「⋯⋯」
何も答えない僕に、Aは痺れを切らして続けた。
「ま、いいわ。傑と行ってくるから」
くるっと後ろを向いたAに、僕は咄嗟に声をかけた。
「しゃーねーから行ってやるよ。俺、辛いの好きだし」
その頃Aと傑はまだ付き合う前で、その時から彼女が好きだった僕は、極度の甘党だったにも関わらず、一緒に出かけたいがために無理をした。
結局、無理が祟ってその後三日間寝込んだが、Aと”辛党同盟”なるものを組み、それだけで優越感に浸ってたんだよね。
.
Aが縛りを課してから、土産を買ってくることも無くなったため、随分暫くぶりの辛いもの。
「僕さ、辛いもの駄目になったんだよね」
そう言って、渡されたお土産をAに返した。
「え、雑魚」
Aはクッキーを一枚口にぽいっと放り込み、鼻で笑った。
「今は甘党になっちゃったから、”辛党同盟”は解散です！」
高らかに宣言する僕に、Aははいはい、と軽く流し、生徒たちに会ってくる、と部屋を出ていった。
「そういえば、傑も辛党だったな」
良かったね、なんて誰に言うわけでもなく僕は呟いた。
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作者名：もんて、 | 作成日時：2021年5月18日 15時
