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「目を通せ」
任務終わりに硝子の所に寄ったAは、手渡された書類を受け取った。
「なあに、これ?」
書類には、真っ二つのバケモノ数体の写真と、文字の羅列が記されていた。
「二日前の任務で、Aが祓った呪霊の他に数体低級呪霊がいただろ」
「そうらしいね、覚えてないけど」
Aは先程車でぐしゃぐしゃにした報告書を広げて言った。
「自分で書いた報告書の内容くらい覚えときなよ」
硝子は呆れたように溜息をつき、そして重苦しく口を開いた。
「人間だった」
硝子の真剣な様子とは対照的に、Aは書類から目も上げずに答えた。
「そうね、写真に写ってるもの」
そして、今度は書類を閉じ、大きく伸びをしながら続ける。
「でもまぁ、もう助からなかったでしょうし仕方なかったわよ」
彼女は報告書を再度丸め、近くのゴミ箱に捨てた。
「……そうだな」
硝子は白衣の内ポケットから煙草を取り出し、火を付け口の近くまで持って行ったが、結局吸うことはなく、ぐしぐしと近くの壁に押し付け火を消した。
「ほんとに禁煙続けてるのね」
Aは大して興味もなさげに、だが他に話題もなく、といった様子でそう話しかけた。
「それは覚えてるんだな」
硝子はふっと息を漏らし、火を消した煙草から出る煙が揺れた。
「忘れないわ、家入硝子のことは」
Aは珍しくにっと笑い、おどけた仕草をした。
その表情に、硝子は懐かしい、誰かの影を見た。
「明日も任務だろ、もう戻れ」
硝子がそう言って話を切り上げると、Aはもう元の無表情に戻っていた。
「それじゃ」
Aはそれだけ言うと解剖室を出た。
外に出ると、地下には決して届かなかった陽の光が眩しく、Aは目を細めた。
「まだ明るい」
そう呟くと、彼女は高専の学び舎に目を向けた。
古びた木造建築は、十年前も、今も、変わらずそこにあった。
Aはほんの少し顔を歪め、今度は陽の光の当たらない影を歩き、高専を後にした。
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作者名:もんて、 | 作成日時:2021年4月10日 16時