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「硝子、何があったんだ?」
硝子にすがりついて泣いている私を見つけ、焦ったような様子の傑。
「あとで本人から聞け」
私の背中をぽんぽん叩いてくれている硝子に感謝しながら、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。
「おはよう」
目が覚めると傑の膝の上にいた。
「すぐる?」
「ああ、目を擦ると腫れてしまうよ」
傑は私の手を緩く掴んで目元から離した。
代わりに私の瞼にキスを落とすと、ゆっくりと抱きしめた。
「そんなに泣いてどうしたんだい?」
困ったような声音で私に優しく聞く傑。
「……男の子、助けられなかった」
またぽろっと涙が零れる。
北海道出張に結局一人で向かった私は、あと一歩のところで少年の命を取りこぼしてしまった。
少年の母親の
「助けようとしてくださってありがとうございました」
という配慮が、優しさが、余計に私を苦しめた。
どうせなら、お前のせいだって罵倒して欲しかった。
「……傑と行けばよかった。私のせいだ」
また嗚咽を漏らす私の頬をするりと撫で、私の顔を傑の胸に埋めさせた。
傑の一定の心音と落ち着く匂いがして、私は瞼を閉じた。
また目の端から涙が一筋零れた。
傑は何も言わなかった。
私が求めていないのを知っていたから。
「君のせいじゃないよ」
とか
「君は頑張ったよ」
なんて、軽々しく口にしないで、ただ黙って話を聞いてくれた。
「お土産買えなくてごめん」
「気にしないよ、ありがとう」
彼の腕の中で、私は再度眠りについた。
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作者名:もんて、 | 作成日時:2021年4月10日 16時