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「身体は大丈夫なのか」
夜蛾学長がAの任務報告書に目を通しながら聞く。
「問題ありません」
Aは夜蛾学長の周りに積み上げられている大量の呪骸に目を向けながら答えた。
夜蛾学長はちらりとAを見ながら質問を続ける。
「なぜ無茶をした」
「ここまで酷い怪我を負うつもりはありませんでした」
Aは間髪入れず答えた。
「普段なら傷一つ負わず祓えたはずでした」
「”普段なら”？」
「……」
Aは口を噤んだ。
夜蛾学長は続きを促さず、黙ってAを見つめた。
Aの唇が微かに震える。
「見知った人間の、呪力を感じました」
途端に夜蛾学長の顔が険しくなる。
「それ、悟と硝子には」
「言ってません。言わないでください」
俯きかけていたAが、顔をばっとあげた。
「絶対に、言わないでください」
Aは相変わらず無表情だったが、両手でスカートをぐしゃりと握りしめていた。
強く握りすぎて、指先が白くなるほどに。
「……分かった。だが、これだけは約束してくれ」
夜蛾学長はAの目を見つめ、念を押すように言った。
「また、何か動きがあれば必ず私の所に来るように」
「分かりました」
Aは、失礼します、と言って学長室を後にした。
夜蛾学長はふーっと長い溜息をついた。
そして、戸棚から黄ばんだ古い報告書の束を出してくると、先程彼女から受け取った報告書と共に並べて置いた。
片方には余白の部分に落書きが大量に描かれ、中には夜蛾学長の似顔絵まである。
そしてもう一方には、必要最低限の内容だけが簡潔に記されていた。
「変わっていないな」
夜蛾学長は報告書の筆跡を見比べながら呟いた。
先程までこの場にいた彼女の姿を、思い出していた。
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作者名：もんて、 | 作成日時：2021年4月10日 16時
