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Aはふうっと一つ深呼吸をした後、呪霊に向かって言った。
「そんなに怪我を負わせられたのが嬉しい?」
呪霊は腕を組み、余裕そうにゆっくりと返事をする。
『なんだ、話せるのか。こちらに到着してから一度も言葉を発しないから話せないのかと思っていたよ』
呪霊の煽りにも動じずに、Aは薄ら笑いを浮かべて言った。
「あなたの最後の戦いになるでしょうから、その一つしかない目にこの世をじっくり焼き付けておくといいわよ」
Aは押さえていた右腕から手を離し、両手を合わせながら続けた。
「私の術式は、触れたものに呪力を流し、一時的に呪具に出来るというもの。有機物のみならず、無機物にも有効。術式を解くと呪具ではなくなる。呪具に出来るものには限界があって、対象の大きさによって呪具にするのに必要な呪力量が決まる。対象が大きすぎたり、数が多すぎると呪具には出来ない、または等級の低い呪具になる」
『”術式の開示”か!初めて見たよ。そんなことをして力を底上げしたとしても、君じゃ俺には勝てないよ』
そう言うが早いか、呪霊は目に見えないスピードで近づき、Aの腹に一発入れた。
Aはぐっ、と低い呻き声をあげ、後ろに飛ばされた。
Aの背中がトンネルの壁に打ち付けられ、コンクリートがひび割れてパラパラと落ちた。
咄嗟に呪力で防いだが、守れていなければ確実に腹に腹に穴が空いていただろう。
Aはコンクリートに手をついて立ち上がり、前を向いた。
が、そこに呪霊はいなかった。
それと同時に右脚に衝撃が走り、確認する間もなくすぐに左腕にも激痛が走った。
そのまま吹っ飛ばされて倒れ込み、起き上がる前に上から降ってくる呪霊を確認し、横に飛び退いた。
『避けるばかりで全く攻撃してこないな?』
数十メートル離れた先で、呪霊はちぎれたAの左腕を高く掲げながら楽しそうに笑う。
Aの左腕は肘から下が無く、勢いよく血が吹き出していた。
Aは声もあげず、ぴくりとも動かない。
呪霊は勝ち誇ったように鼻を鳴らし、Aに背を向けた。
しかし、倒れたAの口元は弧を描いていた。
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作者名:もんて、 | 作成日時:2021年4月10日 16時