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照りつけるような日差しが容赦なく降り注ぐ。
8月20日。
夏も盛りは過ぎたとはいえ、まだまだ猛暑は続きそうだ。
立派とは言い難いが、こじんまりとした建物が並ぶ商店街。視界いっぱいに広がる田んぼでは、育った黄金の稲穂が微かに揺れていた。
10年前と何も変わらない故郷、祈里村の風景。
「懐かしいなぁ」
相澤駿は久しぶりの故郷を目の前に感激したように、ひとり呟いた。
時刻は昼の1時。暑さのせいか外で作業をしている人は見当たらない。
――さて、どうしようか。
帰ってきたものの、明確な目的は無かった……ような気がする。とりあえず実家に行ってみようか、等と思案を巡らせていた時だった。
「こんにちは」
可愛らしい声に振り向くと、そこには女性の姿があった。桃色の瞳に長い茶髪、どこか儚げな雰囲気。こちらも挨拶を返すと、彼女は会釈をして駿の前を通り過ぎようとした。
「……もしかして、聖詩瑠?」
駿が声をかけると、はっとしたように足を止め慌てて振り返る。見開いた桃色の瞳が駿の顔をじっと見つめた。
「……あ!しゅんに……いや、駿さん!」
興奮気味にそう言った聖詩瑠は、少し照れたようにはにかんだ。
◇
2人は日陰に移動すると、話を続けた。
「へぇ、聖詩瑠も帰省か……タイミングが被るなんてすごい偶然だね」
「そうですね!まるで奇跡じゃないですか、ふふ」
前に会ったのは10年前。聖詩瑠は9歳で、可愛い妹のような存在だった。すっかり成長した今の彼女と、よそですれ違ったら果たして気づけただろうか。
「大人になったね。もう、大学生か」
「駿さんだって、立派な大人の男性という感じです!10年前だって私からすれば大人でしたが」
「はは、ありがとう」
駿はぽんぽんと聖詩瑠の頭に手を載せた。
「ちょ、ちょっと、私だってもう大人の女性なんですからね!子供扱いしないでください!」
聖詩瑠は、不満げに頬を膨らませた。コロコロと忙しく変わる表情はあの頃のままだった。
◇
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作者名:花乃子 | 作成日時:2023年12月21日 20時