【sior】ずっと隣で【短編集】

君と〈hr〉 ページ16

「Aちゃん、体調どう？」

病室のドアを開けながら尋ねると、彼女は窓の外を眺めながら、こちらには目も向けず頷いた。彼女の視線を追うように外を見ると、近くの公園で遊んでいる子供や親子がいた。

治らない病気を患っていながら闘うこの子は、強いと思う。そんなこの子に恋をしてしまった俺は･･････何なんだろうか。

「ヒラ君」

窓の外を眺めたまま動かない彼女が口を開く。俺が「なに？」と返せば、彼女は俯く。長い睫毛が伏せて、まるで絵みたいな横顔が見える。

「もう、ね、お見舞い、いいよ」

ありがとう。

辛うじて聞こえた最後の言葉は、小さく、震えていて、俺の心を締め付けるには十分すぎた。悲しかった。来なくていいよ、と言われたのが。だから、俺は知らない振りをした。

「･･････なに急に、ありがとう、なんて。明日も来るしさぁ、」

無理して作った笑顔は、変じゃなかっただろうか。絞り出した声は、震えていなかっただろうか。

目だけを動かして彼女を見ると、また窓の外を眺めていた。

「･･････そうだよね、ごめん」

彼女から発せられた声から、感情を読み取ることはできなかった。表情が見えないことに、こんなに不安を覚えることはあるだろうか。

俺はこの日、病院を後にした。


「Aちゃん、体調どう？」

病室のドアが開く音と共に、あの人の声が聞こえる。緩む頬を隠すように窓の外に目を向けて、彼を見ないよう頷いた。窓の外ではいろんな人が動いている。いつかヒラ君と二人で･･････なんて。馬鹿らしい。

治らない病気を患った私に、毎日会いに来てくれる彼は優しいと思う。そんな彼に恋をしてしまった私は･･････何なんだろうか。

「ヒラ君」

窓の外を眺めながら口を開く。ヒラ君は、いつもの優しい声で「なに？」と返してくれる。男の人にしては高い声が、私の耳に入ってくる。

「もう、ね、お見舞い、いいよ」

ありがとう。

彼を見たら泣いてしまいそうで俯いていたのに、結局震える声になってしまう。一番伝えたかった最後の言葉だって、彼へ届いたのだろうか。

「･･････なに急に、ありがとう、なんて。明日も来るしさぁ、」

彼は、優しかった。そんな彼に甘えてしまいそうで、泣きそうで。また窓の外へ目を向ける。

「･･････そうだよね、ごめん」

何に対しての謝罪なのだろうか。自分でも分からない。彼も今、どんな気持ちなのだろう。表情が見えないことに、こんなに不安を覚えることはあるだろうか。

彼はこの日、帰って行った。


〈君と〉ヒラ

気付いた恋は、〈ksk〉→←別れの挨拶〈fj〉

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す