花笑み Ⅲ (ページ6)

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「阿部ちゃんは、勉強が好き？」

素朴な疑問を阿部ちゃんに投げてみた。

ab「うん、すごく好き。
　知らないことを知るって、
　すごく楽しい。

　知識がないと見えない世界って、
　きっとたくさんあるんと思うんだよね。

　見た景色とか、
　思ったことを言葉にするのも、
　知識がないと出来ないし。

　 …うん、だから俺は
　すごく好きだよ。」

阿部ちゃんはどこか遠くを見ているみたいだった。

「じゃあ、僕も。
　僕も、たくさん学んで、
　広い世界を見に行くね。」

ab「無理してない？」

「うん！」

だったらよかった、と言って、
阿部ちゃんはまた大きくあくびをした。

口元に添える手があざとい。

いつもどおり。

こっちが不安になるくらい。

薬をやめて体調が安定したからか、
むしろ元気になったようにすら感じてしまう。

そんなはず無いのに。
調べて分かっているはずなのに。

やっぱりこの目の前にいる、
それこそ美しい花みたいな、

可憐で優しくて凛として、
聡明できれいな人が、
もうすぐいなくなろうとしているなんて、

想像が出来ない。

僕はその優しい視線を全身で受け止めながら、
そんなことを考えていた。

ab「お、なんか難しいところあった？」

僕のそんな思いなんて知らずに、
阿部ちゃんは止まっている僕の手元を見て、
そう声をかけてくれる。

「ううん、」

僕はまだ、家族や友人、
自分を構成する大切な人を失ったことなんて無くて、

だから余計にそんな未来が想像できない。

彼がいない未来よりも、
いる未来の方が、より鮮明に想像できる。