花笑み Ⅲ (ページ41)

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126.その時はページ41

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それまで取ってつけたような笑顔ばかりを見せるようになっていた佐久間くんの表情が、
ダテが作ったデザイン画を見て、急速に変化していくのが分かった。

それまでぼーっとしていたのが嘘のように、
積極的に会話に参加して、

ダテと生地やデザインについて意見交換をし、
やがて納得したのか、満足気に頷いて静かになった。

佐久間くんの口角が
自然に上がっている。

無理して笑うようになった佐久間くんが、
久しぶりに心から微笑みをこぼしている気がして安心した。

阿部ちゃんと頼まれごとをされたのに、
俺の力だけではそれを叶えられていなかった。

これじゃあ、阿部ちゃんに顔向けできないな、と
思っていた矢先の出来事だった。

・

・

ab「康二、後ろ止めてくれない？」

それはMV撮影のときだった。
彼の衣装は後ろにボタンがついていて、

彼はたまたま隣に立っていた俺に、
それを止めるように頼んできて、

「お安い御用やで！」

俺は阿部ちゃんの後ろに回り込んで、
そのボタンを一つずつ閉じていった。

肩甲骨と背骨がくっきりと見えて、
俺は左右に割れた衣装をぐっと手繰り寄せ、
周りに見えないよう隠した。

「…阿部ちゃん、無理してへん？」

俺はそんな言葉をかけたような気がする。

治療を受けないと聞いてから、
あまりにもその日常が「いつもどおり」すぎて、
俺たちもそれに甘えて、
「いつもどおり」に過ごしていた。

普段通りすぎて、ふと不安になったのだ。

俺たちが普段通り、
と感じる彼の振る舞いは、

きっと彼のたゆまぬ努力によるものなのではないか、と。

しばらく沈黙が続いて、
自分からそんな言葉をかけておきながら、
その空気に耐えられなくなって、

「いや、大丈夫ならええんやけど」

と、言葉で沈黙を埋める。

一番上までボタンをとめて、
そのさらに薄くなった肩を両手で叩いた。

ab「…俺、ちゃんと普段通りに見えてる？」

沈黙を破った彼の言葉が、
想像もしていなかった言葉で、
言葉に詰まった。

やっぱり。

彼は「普通」に過ごすために、
きっとたくさんの神経をすり減らしている。

その言葉が全てを物語っていて、
自分の考えていたことは間違っていなかったのだと確信した。