花笑み Ⅲ (ページ35)

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スタジオに着くと、
阿部ちゃんはすでに到着していて、

もはや当たり前のように眠っていた。

俺はまだ薄手のジャケットで十分だったけど、
寒がりの阿部ちゃんは、
すでに厚手のロングコートを羽織っていて、
穏やかな表情で寝息を立てている。

ポケットにしまっていたいちょうを出して、
そっと眠っている阿部ちゃんの横に置いてみる。

向かい側の椅子に座って、
眠っている顔を眺めた。

阿部ちゃんがよく眠るようになってしまって、
彼とゆっくり会話をする機会も減ってしまったような気がする。

その代わり、俺はこうして彼の顔を見ながら、
話したいことをたくさん頭に浮かべて、
ずっと心の中で話しかけた。

目を閉じていたって、
その顔を見ていれば、
彼のリアクションが想像できて、

俺はそれだけで十分だった。

やがて阿部ちゃんがもぞもぞと動き出して、
眠そうな目をゆっくりと開けた。

眩しそうに目を細めて、
俺を見るとふわりと笑ってみせる。

ab「…おはよ、佐久間」

「おはよう！阿部ちゃん！」

ab「また寝ちゃってたね」

彼は少し寂しそうに言って、伸びをする。

俺も合わせて大きく伸びをすると、
自然とあくびまで出てきて、

その数秒後、俺のあくびは見事に阿部ちゃんに移り、
負けないくらい大あくびをしたので、

お互い面白くなって笑いあった。

ab「あれ、いちょうの葉っぱ」

目の前に置いてある葉っぱに気がつくと、
彼は優しくそれをつまみ上げて、
嬉しそうに微笑んだ。

「そう、綺麗だったから拾ってきた！」

ab「そっか。
　もう、秋だね」

また、俺の季節が移り変わった。
彼がそう言うから、今日から「秋」なのだ。

「うん！秋になった！」

阿部ちゃんはふふ、と笑って、
大事そうにそのいちょうの葉っぱを
俺との間に優しく置いた。