花笑み Ⅲ (ページ30)

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115.気づかないふりページ30

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ミディアムバラードだから、
振り付けも特別激しいものはなくて、

だからこそ一つ一つの動きを揃えていく必要がある。

動きが少ない分、
誤魔化しがきかないのだ。

何度か音に合わせて踊りながら、
それぞれの癖や、動きのズレを出し合って、
潰していく。

その作業の方が何倍も時間がかかった。

振り付けの最中、
普段は康二と一緒に何度も振りを確認する阿部ちゃんは、
あえてなのか、あまり康二に話しかけていなかった。

一人で鏡に向かって踊る康二を、
遠目から優しく見守っていただけで。

彼は彼なりに、
自分が離れていく準備をしているのだと思った。

照があえて彼をセンターにしたのは、
簡単にそんな事させない、という気持ちや意地があったのかもしれない。

やっぱりふたりとも、
不器用で頑固だ。

sk「岩本先生！」

振りを確認していると、
佐久間が明るく声を上げた。

iw「なに、佐久間」

sk「阿部ちゃんが
　活動限界を迎えているであります！

　少し寝かせても良いでしょうか！」

視線を移すと、佐久間に支えられて、
立ったまま眠りそうになっている阿部ちゃんが目に入った。

iw「おう、寝とけ」

よく眠るようになったけど、
最近はより顕著になっている。

阿部ちゃんは、その身体が大きく傾いて、
佐久間にがっしり支えられてから、
ようやく自分の意識が飛びかけていたことに気がついたように顔を上げた。

ab「…あれ、また俺…」

sk「活動限界です！
　至急眠ってください！」

佐久間に手を引かれて、
リハ室の端に連れて行かれる阿部ちゃんは、
申し訳無さそうにメンバーの顔を見て俯いた。

佐久間が手早く眠れるように場所を確保し、
パーカーをぐるっと丸めて枕にして、
毎日のように持ち歩くようになったブランケットを上からかぶせる。

sk「動画撮っておくからさ！」

ab「ごめん、」

sk「じゃないでしょ？」

ab「…ありがとう」

そんな会話が聞こえた後、
佐久間はしばらく世話を焼いていたが、
数分もすれば戻ってきた。

リハ室の隅を見ると、
阿部ちゃんは素手に寝息を立て始めている。

dt「…最近、本当増えたな」

舘さんが心配そうにその様子を見ながら言った。

nb「病気のせいだろ」

翔太がためらうこと無くそう言うと、全員が黙り込む。
みんな、今まで口にはしなかったけれど、
きっと分かっていたんだろう。