花笑み Ⅲ (ページ23)

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ab「今日のご飯、何系なの？」

阿部ちゃんは忙しなく視線を動かしながら、
そう声をかけてくる。

行き先は伝えていない。

食べられないものも特に無いと聞いていたから、
リサーチしたイタリアン料理のお店を予約している。

「内緒っす」

ab「え、なんで？」

視線を上げて俺の方を見ると、
不服そうな顔を浮かべつつも、

表情には「楽しみ」と書かれているみたいで、
思わず笑ってしまった。

阿部ちゃんの手元の資料に手を伸ばして、
それをさっと奪う。

「寝ておいたら？」

それに目を通すふりをして、
俺は努めてさり気なく聞こえるように言った。

ab「…んー…」

こうしないと最近の彼はほとんど無意識に眠ってしまって、
テーブルに顔面を強打しかねない時すらある。

それを指摘すると、
「それはない」と笑ったけど、
実際には何度もメンバーにそれを阻止されている。

無意識に眠りに落ちていく阿部ちゃんを見ているのが、
なんとなく怖いのだ。

「俺が読んでおくんで」

ab「えー、それは信用できない笑」

奪った資料に俺が目を通し始めるのを、
彼は笑いながら見ている。

難しい漢字が並んでいて、
「…これは？」
結局俺は阿部ちゃんに頼ってしまう。

ab「これはね」

阿部ちゃんは資料を覗き込んで、
結局二人でそれを読み始める。

俺が音読しているのを横で見守りながら、
だんだんその目がとろんとしてくるのが分かった。

細い首がこくんこくんと揺れ始めるのを見て、
顔面をテーブルに強打する前に肩を掴んで止める。

「ほら、寝ててよ」

ab「…うん」

阿部ちゃんは観念したように机に体重を預けて、
資料を読む俺を眺めはじめた。

「病気のせい？それも」

俺がそう声をかけたときには、
すでに阿部ちゃんは眠りに落ちていて、

俺の言葉は行き場を失って消えていく。

資料を読むのも、台本を読むのも、
何かメッセージを書くのも
阿部ちゃんに頼ってばっかりだった。

いつも優しく教えてくれて、
笑い飛ばしてくれる彼に、何度も救われてきた。

「ちゃんとしないとなぁ、俺も」

彼が、もう大丈夫って思えるように。