花笑み Ⅲ (ページ20)

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冷蔵庫からお気に入りのチョコレートを3粒取ってきて、
曲を聞きながら頬張った。

大好きな、甘いカカオの味が口の中に広がっていき、
束の間悩みなど忘れて、幸せな気分に浸る。

頭を空っぽにして、最初に見えたイメージを呼び起こす。

何度も聞いて、曲自体はだいぶ耳に馴染んでいるが、
やっぱり同じフレーズを聞くと、
阿部が真ん中に立つ姿が頭に浮かんでくるのだ。

このフォーメーションは間違っていない。
答えははっきりしているのに、
どうしてこんなにうじうじ悩んでいるのだろうか。

2つ目のチョコレートを頬張りながら、
スマホに手を伸ばし、
ある人物の名前を探す。

曲選びの時、一番にこっちが良いと声をあげた人物。

「もしもし」

数回のコールで、彼はすぐに電話に出た。

口の中にまだチョコレートが残っていて、
若干話し方が変になる。

nb『はいはーい？』

翔太は、眠い時特有の甘ったるい声でそう答えると、
電話の向こうでおおあくびをした。

俺が何かを食べているのが分かったのか、
「俺もなんか食べよー」と
もぞもぞと動きはじめた。

「今平気？」

nb『いいけど。』

がさごそビニールを漁る音がして、
「あったあった」と何かを見つけたのか満足そうな声が聞こえた。

「今から飯かよ」

nb『照だってなんか食ってんじゃん。
　ていうか、
　この時間に電話かけてきたのそっちだろ？」

そう言われて、
もう夜も深くなっていることに気づいた。

途端に申し訳なくなる。

翔太の声も甘ったるくなるわけだ。

「…わりぃ」

nb『いや全然いいけど。まだ寝ないし』

「振り付け、煮詰まっててさ」

nb『へぇ、珍しい』

翔太はあっけらかんと言った。

俺の悩んでいることが馬鹿らしくなるほどに、
軽く相槌を打つ。

「…なんで翔太は、
　あの曲がいいって思ったの？」

どうしてもそれが聞きたかった。

相手が翔太だったのは、
彼が一番にこれ、と断言したからだ。

彼はメインボーカルとしてのプライドも責任もしっかり持ち合わせているし、
翔太の高音は一曲目でも十分に発揮できたはずだ。

それなのに、
どうしてあんなに強く断言したのかが気になって、

そこに何かの答えがあるような気がした。