花笑み Ⅲ (ページ1)

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87.正解ページ1

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一人暮らしの部屋は、
無機質で冷たく感じる。

ただでさえ押しつぶされそうな心は、
それに助長されるようにどんどん冷え込んでいくような気がした。

俺は心の整理がつかなくて、
スマホを掴むと、ある人物の連絡先を探した。

『もしもし』

出てくれないかもしれないな、
と思っていたのに、

意外にもあっさり、数回のコールで
低くてロイヤルな心地よい声は耳に入ってきた。

「…もしもし、」

dt『どうした』

その声に安心して、言葉に詰まる。

ダテは急かすこと無く、
俺の言葉を静かに待ってくれていた。

電話の向こうで、
水道の水が流れる音が聞こえてくる。

次第に包丁で何かを切る軽快な音が聞こえてきた。

料理をしているらしい。

dt『大丈夫か』

「…」

うまいこと答えられないし、
言葉も出てこない。

「…何が正解なんやろ。
　俺、阿部ちゃんにどうして欲しいんやろ」

ようやく出た言葉は、
何度も自問自答して、
答えが全く見つからない気持ちだった。

電話の向こうでは、
まだ軽快な包丁の音は続いている。

「わからへんねん。」

俺の内容の無い言葉に、
ダテは静かに「そう」と相づちを打った。

次第にパチパチと音が聞こえてきて、
油に何かが焼かれる音が耳に入ってくる。

dt『正解なんてないよ。
　まぁ、あえて言うなら、
　
　全部正解で、全部不正解だ』

ジュージューと美味しそうな何かが焼ける音。
その音の隙間から、ダテの優しい声が聞こえてきた。

dt『阿部が辛い治療を続けて、
　少しでも長く生きてくれたところで、

　ゴールは変わらないんだよ。
　遅いか、早いかだけの違いだ」

言葉は淡々としているけれど、
その声には不思議とぬくもりがあって、

俺のごちゃごちゃとした心は、
少しずつ整理整頓されていくような気がした。

dt『俺たちが正解にしてやればいい。
　阿部がこれでよかったって思えるように
　俺たちがしてやればいい。

　あとはやり方なんて、
　どうだっていいんだよ』

悩んだところで、何も解決しない。

考えても考えても、
ダテの言う通り正解なんて無い。

正解か不正解かでくくるのなら、
その言葉が全てな気がした。