花笑み Ⅲ (ページ14)

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99.重ねた時間ページ14

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「阿部、着いたぞ。
　起きられそう？」

移動車に乗り込むなり、すぐに眠りに落ちてしまった阿部を優しく揺すると、
彼は眩しそうに薄目を開けたが、すぐに辛そうに目を閉じてしまった。

「阿部、」

もう一度声をかけると、
「んん」と言葉にならない声を漏らした。

酷く疲れたような顔をして、
座席の上で身を捩らせる。

慢性的な低血圧なのもあるだろうし、
この頃になると、
流石に俺たちも、病気による影響だということは
薄々気がついていた。

一度立った席に座り直して、
阿部の頭を静かに撫でながら、
「動けそう？」
と本人にしか聞こえないくらいの声でささやく。

「うん」と頷くものの、
その動きは鈍く、辛そうな表情を必死に抑え込んでいるのがわかる。

ab「…あぁ、ごめんね。
　舘さんは先に行ってて」

また作ったような笑顔を貼り付けて、
大丈夫じゃないくせに、
「大丈夫」と微笑んでみせる。

「照、頼むわ」

俺の後ろで出番を待っていた様子の照に声をかけ、
自分が座っていた阿部の隣の席を移動した。

照は頷いて、阿部に背中を向けて、
通路にしゃがむ。

iw「ほら、乗れよ」

ab「…平気だって」

阿部はしばらくその背中に乗ろうとはしなかったが、
すでに車を降りていたマネージャーや他のメンバーに急かされると、
ようやく重そうな身体を動かして、
照の背中にしがみついた。

俺は照と阿部の荷物をまとめて持ち、
重なる背中を追いかける。

今日はホールで音楽番組の収録。

朝から9人の冠番組の撮影をしていて、
そのままホールに向かっていた。

少しでも休ませようという俺なりの配慮のつもりだった。

俺は建物に入る前に二人の前に立って、
心配そうにこちらに視線を向けてくる後輩たちを牽制しながら、
それでも話しかけてくる後輩に
「車酔いだ」といって誤魔化しながら、楽屋に向かった。

「まだちょっとゆっくりできるみたいだから、
　少し寝てろ。」

楽屋について照が阿部を下ろすと、
俺はそう声をかけ、
持っていたジャケットを彼の肩にかけた。

佐久間が自分の準備を終えると
阿部のところにすっ飛んできて、
世話を焼き始めたので、

その役割は佐久間に任せることにした。