花笑み Ⅲ (ページ11)

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fk「じゃ、二曲目ね」

ふっかが再生ボタンを押す。
二曲目が静かに流れ始めた。

…なんだ、この感覚。

ジャンルで言えば、ミディアムバラードに分類されるだろうか。

先程の曲とは全くイメージの違うメロディー。
どこか日本風な音も聞こえてくる。

優しいのに、心の芯に刺さって抜けない棘のような、
独特な感覚に襲われる。

気がつけば身を乗り出していた。

スピーカーから流れる音を、
一音も逃したくない。

この不思議な感覚の正体を知りたかった。

そうか、そういうことか。

サビが流れ始めた時、
俺は妙に納得した。

今の俺たちに足りないものをえぐってくるような痛みが走る。

それと同時に、
勝手に頭の中でメンバーが踊り始めるのが、
はっきりと、鮮明に見えた気がした。

歌っている。
ステージの真ん中で。

この違和感の正体、
あのちくちくする棘のような痛みの正体は、

きっと今の俺たちの不安定さだ。

この曲は「９人」でしか表現できない。

どのフレーズを聞いても、
どこか不安定さを感じてしまうのは、

自分の心のどこかにある不安だった。

舞台上でぐったりとしていた阿部ちゃんの姿が頭をよぎると、
さらにその棘は鋭くなる。

勝手に諦めそうになっていた心を、
えぐられているみたいだった。

この曲には、阿部ちゃんが必要だ。

絶妙なバランスで成り立っているこの曲。
リズムは難しく、メロディーも複雑で、
どこか不安定なのに成り立っている。

９人で手を繋いで綱渡りをしているような、
９人で初めて成立するような、

どこかアンバランスでスリリングで、
しかしそれ以上に魅力的な楽曲。

この曲を、自分たちのものにするには、
相当難しいだろう。

それに…阿部ちゃんがいなくなるようなことがあったら。

その不安が、この曲を選ぶのを躊躇わせた。