花笑み Ⅱ (ページ44)

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sk「嫌だよ…ねぇ、阿部ちゃん。
　いかないで。どこにもいかないで」

佐久間が床にぺたりと座り込み、
腕に顔を押し当てながら、
阿部ちゃんに泣きつくのを見かねて、

俺は泣き崩れる佐久間の隣に移動して、
視線を合わせるようにしゃがんだ。

「佐久間、」

顔を真っ赤にして、見たことのないくらい涙をこぼして、
駄々をこねる子供みたいに泣きじゃくっている。

自分の発した声が弱々しく震えていて、
声を発した瞬間に、
また新しい涙が溢れ出す。

気持ちは痛いほどに分かった。

俺だって嫌だ。

いつかこうなるかもしれないと分かっていたのに、
知っていたのに、実感がわかない。

どこか、ずっと先の未来だと思っていた。

「阿部ちゃん、」

顔を上げて阿部ちゃんを見上げる。

そこで初めて彼自身も泣いていることに気がついた。

こらえるように、下唇を噛んで、
泣くまい、と思ったその表情のまま、
悔しさをにじませて、大粒の涙をこぼしている。

その姿を見て、俺も何かのストッパーが外れてしまった。

「ばか」

立ち上がって思い切り彼を抱き締めた。

「…怖いよな。
　阿部ちゃんが一番怖いよな。
　
　…ごめんな」

病気になってから、
何処か強がるようになって、

きっと何度も一人で現実と向き合ってきたはずだ。

それでもきっと、
どこかで実感できない部分はあっただろうと思う。

抱きしめると、その細い身体は小さく震えて、
しかし、俺を痛いくらいに強く抱き締め返してくれた。

俺の肩で息を殺して泣き始める。
この涙を、どれだけ超えてここまで来たんだろう。

病気を初めて聞いた時、
俺が受け止めてあげられなかった涙。

俺も少しは、逞しくなれただろうか。

阿部ちゃんは、あの時みたいに嘘はつかないし、
誤魔化したり、突き放すことはしなかった。

涙は止まらない。
俺も、メンバーも。

佐久間の嗚咽はまだ響いていて、
声を殺しながら泣く、彼の小さな悲鳴のような声も、
やけに大きく聞こえた。

俺たちに残された時間は、ほんのわずかだ。

阿部ちゃんの命が散るその瞬間まで、
俺たちは側にいる。

彼がそれを選んで、願ってくれたのだから。