花笑み Ⅱ (ページ40)

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佐久間くんの目は
普段よりもくぼんで見えた。

ちゃんと眠れていなかったのかもしれない。

sk「めめ、俺、怖い」

普段よりもずっと低い声でそういった。

俺たちが加入してから、
いや、その前から、
ずっと先頭で笑っていた彼が、

こんな顔をしてここまでネガティブな発言をしたのは
記憶のなかではこれが初めてだったと思う。

舞台中もずっと阿部ちゃんのことを気にかけていて、
本当にいつまでも保護者のようで、
だからこそ、俺たちよりももっと、
阿部ちゃんの体調の細かいところに気がついているのかもしれない。

sk「阿部ちゃんの前で泣きたくない。

　でも、逃げたくもない。
　ちゃんと聞くべきだと思う。

　 …ただ、怖い。
　どうしたらいいかわかんない」

一歩目が歩き出せないのだ、
と佐久間くんは言った。

歩きだして、その話を聞くのがどうしようもなく怖いのに、
逃げ出すことも出来ない。

sk「ごめん、めめ、
　先に行ってて。」

彼は消え入りそうな声でそう言うと、
力なく俺の背中を押した。

「…一緒に行きましょう。」

自分も、一人で歩き出すのが怖かった。
半ば強引にその手首を掴んで、歩き始める。

佐久間くんは、被っていたキャップを深くかぶり直した。

普段あんなに軽快な足取りは、
今までになく重い。

それでも、強引にでも、
ちゃんと8人で聞くべきだと思う。

それに、阿部ちゃんが一番聞いてほしいのは、
この人なんじゃないかと思う。

廊下に出ると、
岩本くんが一人で立っていた。

俺たちを待っている様子だった。

俺に引きずられるように俯いている佐久間くんを見て、
岩本くんは俺の目を見ると、静かに頷いた。